3.
攻守交代。
小狼はまず、自分の身体や浴室の床、壁に飛び散った白濁を、石けんの泡と一緒にシャワーで洗い流す。それから自分が座っていた椅子へさくらを導いた。
入れ替わるときに一瞬だけ自分の股間を撫でるさくらの視線を感じた。彼女は平静を装って腰を下ろしたが、顔が上気しているのは明らかだ。耳まで赤くなっている。
さっきはあれほど大胆な行動を見せたのだから、多少の免疫が付いていてもおかしくないはずなのに。彼女の純情さは相変わらず。
鏡越しに垣間見たあの妖しい瞳は本当に彼女のものだったのか、誰かに操られていたのではないかと疑いたくなるが、多分あれも彼女の素顔の一つ。自分にだからこそ見せてくれた、彼女の本質の一部なのだろうと小狼は思った。
少年の心に恥ずかしさと、嬉しさと、堪らない愛しさが込み上げてくる。
今度は自分が彼女をキレイにする番だ。
優しさを湛えた小狼の微笑みがわずかに歪んだ。
小狼はさくらと同じように、洗髪から始めた。
少年が少女の髪について褒めれば、今度は少女が先程触った感想を含めて少年の髪を褒め返す。
小狼が感じたようにさくらもまた人に髪を洗われる心地良さに目を閉じ、穏やかな息を吐いている。洗髪は身体を洗うことに比べ、互いに性的な刺激が少ないんだろうなぁなどと小狼は妙に冷静な思考を巡らせていた。
「流すぞ」
「うん」
最後に髪に馴染ませたリンスを洗い流す。
曇りかけの鏡に映ったさくらの顔。必至に目を閉じているその表情がとても可愛い。
また彼女の髪を洗ってあげられる機会があれば、今度はこちらを向かせて洗ってみるのもいいかもしれない。
ふとここで少年の脳裏を一瞬、倒錯的かあるいは変質的とも言える想像がかすめた。嫌悪感が先に立ちそれ以上の想像は止(と)める。
さくらの顔を自分の股間に埋(うず)めさせて口で…、なんて頼めるわけがないし、やってもらおうとも思わない。小狼がよしとするのは常に“さくらを気持ち良くさせてあげること”か、“お互いに気持ちのよいこと”だけ。自分だけが気持ち良さを貪るなんて事は決してしたくない。
もっとも先程の己の痴態はこの時、棚に上げていたのだが。
洗髪は終了。
続いて小狼はさくらが使っていたタオルを手に取った。既に彼女は少年を洗い始めたときからずっと一糸まとわぬ姿だ。
「……次は身体だな」
（！！）
少年の何気ない独り言が少女の心臓を鷲掴みにした。
まるでこれからの事を宣言するかのようなセリフ。
それは彼女が彼をキレイにしようと決意したセリフにも。
彼が彼女を洗おうと告げたセリフにも似ていて。
思わず彼が絶頂に達した瞬間の表情が思い出され、さくらの頬が赤く染まる。期待した身体がはしたない反応を示していることを自覚し、頬の赤みは更に顔全体へ広がった。
小狼は手にした石けんでタオルを軽く泡立てながら、じっとさくらの背中を上から観察している。
浴室の熱気で彼女の身体はほんのり桜色に染まっている。うなじに張り付いた彼女の髪が色っぽい。肩の丸みから腰のくびれを通り、柔らかなそうなお尻へと至るラインは芸術的ですらある。
触らなくても分かる滑らかな肌。それはメレンゲのような柔らかさと、生クリームのようにしっとりとした感触を併せ持っている。
今まで何度となく味わったその肌の甘さは、本当にどこまで行っても尽きることなく少年に新しい感動を与えてくれる。
ほんの少し前、彼女の繊細な指の感触を味わい、言い換えれば彼女の指に犯されたとも言える小狼のオトコのコが、今度はその柔肌を欲して鎌首をもたげ始める。底なしの自分の性欲を呪いながら、しかしその中に今度は自分の意思が含まれていることで半ば諦めを感じつつ、小狼は石けんを置いた。
「良いか」
「あ、うん」
もう一度、さくらの心臓が大きく脈動する。
彼がタオルと石けんを擦り合わせる音を聞きながら、さくらは勝手に高まっていってしまう自分の鼓動を抑えるのに必至だった。
痛いほど感じた彼の視線。それが送り届けてくるシグナルの暗号を解読すると、恥ずかしさと同時に、お腹の奥をチリチリと焼くような、コンデンスミルクに似たトロトロの液体が少しずつお腹の奥に溜まっていくような、奇妙な感覚が込み上げてくる。それはさくらが小狼と深いキスを交わすときに感じる気持ちよりももっと濃厚で。
もしそれがお腹の奥に溜まりすぎてしまうと自分でもどうしていいか分からない、もどかしく切ない気持ちで心が一杯になるだろう。好きで好きで彼の全てを手に入れたい、感じたい、と心と身体の両方が渇望してくるからだ。
その変化が今、少女の身体の中で爆発的に始まろうとしている。少年の持つタオルが触れた瞬間から。
そして。
『…………』
無言のまま彼の手に握られたタオルが、さくらの背中に触れた。
その場所から甘く、くすぐったく、温かい感覚が波紋を描くよう身体の中を伝わっていく。心地良さの中で、危うさと恥ずかしさが同時に味わえる奇妙だけれども愛しい感覚。
タオルの向こう側に確かに彼の、小狼の体温が感じられる。
彼に“そう言うつもり”がないこと事は分かっていても、少女の心は徐々に濡れたような想いに浸食されていく。自分だけが勝手に興奮しているようでちょっぴり恥ずかしくなる。
「どうだ？」
それに夢中になるあまり、恥ずかしさを意識するあまり、不意に投げかけられた質問をさくらは危うく聞き逃すところだった。
「うん…き…、ちょうど良いよ」
まだそれを確かな快感と認めてしまうには早いようだ。理性の鎖が恥ずかしさを繋ぎ止めている。
彼女は自分の中に生まれたその感覚を誤魔化すよう、何でもないかのように振る舞った。小狼のタオルが少しずつ上昇し、首や肩に達しそうになったときには、邪魔にならないように後ろ髪を両手で持ち上げてあげる余裕を見せる。
「ありがと……」
自分でもよく分からないお礼を告げ、小狼は露わになったさくらのうなじへタオルを進めた。
彼女の仕草が妙になまめかしく見え、ジョギングの時と同じくらいだった心臓の鼓動は一気に倍近いリズムと大きさに跳ね上がった。後ろ髪を持ち上げたままの格好もどこか色っぽく見えてしまう。半起ちの状態だった小狼自身が徐々に力を取り戻していく。この体勢ははっきり言って物凄く不味いのではないだろうか。
更に彼女が両腕を使っているから、それまで隠れていた２つの膨らみが小狼の視覚を直に刺激してくる。
鎖骨から胸のすそ野、柔らかい曲線を描いて、続くピンク色の頂きまで。
彼の下半身を襲う鈍痛は酷くなる一方だ。
小狼は手早く首、肩を洗っていくが、視線はこのところ頓(とみ)に大きくなり始めたと言っていた彼女の胸を捉えて離さなかった。
さくらは少し目を伏せ、彼が動かすタオルの動きを肌に感じる圧力で追っている。
（ちょっと大胆、だったかな……）
タオルが行きつ戻りつする数回に一度、胸を撫でていく小狼の視線。
それが素肌を急速に温めていく。心臓の鼓動を高めていく。
胸からさざ波のように広がって行くくすぐったさにも似た甘い熱が、恥ずかしさを上回り彼女に胸を隠すことを躊躇(ためら)わせている。あるいは彼に見られることを望んでいるのかも。
（……恥ずかしいけど……）
それが多分、エッチな意味で気持ち良いと言うことなのだろうとさくらはうっすら意識した。
首周りに続いて腕を洗ってもらうとき。手持ち無沙汰になったもう片方の腕で胸を隠した瞬間、胸の先から走った電流のような刺激も多分、同じもの。
彼女のエッチに関する知識は、小狼を気持ち良くさせたいために友人達とのおしゃべりから得た限定的なものだ。自分が受け身となったときの知識は恥ずかしさや後ろめたさが邪魔をして、友人達のそれよりもむしろ乏しかった。
お腹側を残し、上半身を一通り洗い終えた小狼は続いてさくらの脚へタオルを進めた。
普通はそのまま胸やお腹を洗いそうなものだが、今の小狼にとってそれは自分の怒張をいきり立たせる以外の何者でもない。
――これ以上、下半身から沸き上がる熱が増えれば、理性は容易く焼き切られてしまうだろう。その前にちゃんと彼女の身体を洗い流してあげなければ、恥ずかしさを抑えて自分を洗ってくれた彼女に悪い気がする――。
さくらの行為にキッチリ応えようとする姿勢はいかにも小狼らしい。
また、先に洗うべきところを洗ってしまい、楽しみは後にとって置こうというのも考えの一つだった。
身体の底から沸き上がる官能を抑えるためか、それとも官能に操られているのか、小狼は急いで指先から足首、スネ、ふくらはぎ、膝と洗って行き太股へと至る。
「……ぁっ……」
触れた瞬間に小さく漏れた彼女の吐息を聞き逃してしまうほど、今の小狼はさくらの太股に魅入られている。
そこは他の部分よりも弾力に富み、しなやかさが強く感じられる分、軟らかさは少ない。官能美よりも健康美が備わっている部分。
そして禁断の花園に最も近い場所でもある。
「…ぅ…」
記憶の底からたぐり寄せた映像が小狼自身を大きく上下させた。
太股の誘惑に陶酔しながらチラッと鏡の中の彼女を伺う。
唇がわずかに開き、伏し目がちの瞳はトロンとしている。頬は浴室の熱気よりも赤い。耳を澄ますと聞こえる小さく小さく抑えられた吐息。
自分を抱きかかえるようにして、左腕で胸を押さえ、右手を太股の間へ伸ばしている様子が無性に可愛らしい。
相手がこんな形で恥ずかしがってくれるなら、もっと恥ずかしがらせてやりたいという意地悪な気持ちが強くなっていく。相手が大好きな人なら尚更だ。
今ならさっきのさくらの行動も理解できる。さくらの今の姿は小狼にとって何よりも強力な媚薬なのだから。
太股の外側から内側へと至る過程で、小狼は力加減を調整して微妙な指遣いをタオルの裏側に忍ばせてみる。
「……ん…ぅ…」
すると明らかにさくらの唇から漏れる吐息が大きくなった。誘惑されて興奮しているのは自分だけじゃない。小狼の理性を繋ぎ止めている鎖はもはや限界だった。
ふとした拍子に滑りすぎた彼の右手が、彼女の右手に当たった。玉突きの要領で押された彼女の右手は、その意思と裏腹に自ら隠していた秘部へ。無意識のうちに深く押し当てていた人差し指が最も敏感な場所へ押し込まれた。
「……ひ、あぁぁぁん……！！」
白い首がのけ反り、さくらの口から明らかな喘ぎ声が漏れる。
可愛らしい悲鳴で満たされる浴室。
彼の理性の鎖を断ち切るには充分すぎた。
少年は太股から素早くタオルを離し、それに付いている泡を両手にたっぷりとなすり付ける。不要になったタオルは洗面器に放ってしまう。
（……ぇ？）
一瞬白くなった意識の外側で水が跳ねるような音が聞こえた。
さくらが太股から小狼の手の感触が消えていることを意識したのはほぼ同時。
彼女の左腕は一瞬の白い間隙のせいで、もう胸を覆ってはいない。
間髪入れず、小狼の両手がさくらのバストを襲った。
「ふぁぁ……」
さくらの肺に溜まっていた桃色の吐息が一気に吐き出される。
まるで腫れ物を触るように。しかし肌の滑らかさを確かめるように。
小狼の手が彼女の双丘を柔らかなタッチで洗っていく。
本当に大事に大事に。ガラス細工を扱うような手付きで、愛情を込めて。
「…んぅ…ふぅ……」
さくらは漏れる吐息を抑えようと精一杯の努力をするけれど。
その指遣いの奥に見え隠れする彼の欲望が、文字通り胸を捉えて離さない。
「あ…、は…、ん……」
さくらの頭の中を、“肉欲”という言葉が過(よ)ぎる。それは知世に見せてもらった大人の女性向けコミックに載っていた言葉。
今の小狼が指先に載せて伝えてくる裏側の感情にはその言葉がピッタリかもしれない。
そして彼の指が行き来する度、自分の中で渦巻く熱っぽい感情もそれに近い。
（……それって……）
わずかな恐怖を感じたさくらはおずおずと、その源である自分の胸元へ視線を落とす。
その時、偶然にも彼女は視覚と触覚の両方から刺激を受け取った。
彼の両手が胸の頂きに触れる瞬間を。
「あぁぁぁん！ ……んぁ、あ……！」
それまで控えめだったさくらの喘ぎ声が大きくなった。
自分の指先の力加減一つで敏感に反応する彼女。
もっとその声が聞きたい。もっと彼女を感じさせたい。
小狼の心が黒い欲望に支配されていく。
優しく触るだけだった少年の指が、乳首を摘むような手付きに変わる。
グミのようなその果実は既に立派に存在を主張し、彼の指の腹にコリコリとした感触を返してくる。
「あぁぁ…あん！ くぅん！」
コンポのボリュームのように、自在に声量が変わるそのツマミ。反応と感触を確かめるよう洗っていく。
合わせてバスト全体への気配りも彼は忘れない。
マシュマロのような柔らかさと、泡の滑りも手伝って手に吸い付くような感触を持つ彼女の乳房。奥に硬さを残すそれを小狼の右手はすそ野から先端へ、包み込むように、凝(こ)りを解(ほぐ)すように、洗っていく。
それから乳輪の縁を、触るか触らないかの遠慮がちなタッチでなぞった後、今度は螺旋を描くようにして、その円の上を中心へ向け彼の指が動いていく。中心の突起へ辿り着いた指は、他の指と協力してしごき上げるようにその突起を刺激した。
「ひあっ！ あっ…あっ…あっ…ふぅ！」
少年の指はもはや彼女を洗っているのか、愛撫しているのか、分からない。
洗っていることを装っていても、指先では剥き出しにされている欲望。
でも自分を大切に洗ってくれている心遣いも確かに伝わってきて。
彼の指に従順に反応してしまう身体と、彼の誠実な愛情を汲み取りたい心。
さくらは羞恥と愛欲の間で板挟みになっていた。
（小狼くん…！ 小狼くん…！）
唯一、確かなのはどちらも愛しい人を思う気持ちから生まれていると言うこと。
このまま理性に抗(あらが)わず、欲望のまま彼を感じられたら、どれほど幸せだろう。
ブレーキを掛けている羞恥心が歯痒い。こんなに近くにいるのに。切なさで肺が迫り上げられているようだ。
（……え？ コレって…）
端と気付くさくら。
背骨の根本、尾てい骨の上辺りに時折擦りつけられる熱の塊。
胸にばかり気が行っていて気が付かなかったがそれは…。
（小狼くんの…だよね。小狼くんも……）
弄られる自分の胸をずっと注視していた視線が持ち上がる。
鏡の中の自分と目があった。
頬は朱に染まり、瞳はトロンと潤み、唇はわずかに開いたまま。見ているこっちが恥ずかしくなりそうなエッチな表情。
そして小狼とも目があう。
頬も唇も自分と変わらない。ただその瞳はいつもの小狼の瞳ではなく。真っ直ぐに自分を見据え、その奥に自分を求める炎がユラユラと揺らめいている。
（……私の身体で興奮してくれてる……！）
さくらの理性のたがが緩む。
追い撃ちを掛けるよう、小狼の指が左右の胸の先端を一緒に摘み上げた。
「ひああぁぁぁ…ン！！」
乳首から発せられた電撃が身体の中を貫き、さくらのお腹の奥を揺すった。自分のアソコから何かが弾けそうな感覚が、物凄い速さで背筋を駆け上っていく。
その刹那、彼女に残された一握りの理性が最後の抵抗を試みる。
「だっ駄目っ！ いやっ！ 待ってっ！！」
突然発せられる拒絶の声。
小狼は思わず、両手を止める。
１秒ほど逡巡し、さくらの胸から両手を引き剥がしてしまった。
「ぁっ……」
小さく声を上げる彼女。
本当の拒絶でないことを彼は重々、承知している。けれど本当にそうなのか確証が持てない。自分が勝手に魅了されているだけで、彼女は本当は…。嫌われるかもしれないというほんのわずかな可能性が無意識のうちに少年の手を引かせたのかもしれない。
目の前の少女が上半身をゆっくりと半身分だけ回し、背後の彼に視線を送る。
濡れた瞳が色っぽく、浴室の湿度を得た艶っぽい唇は少年の欲情を誘って止まない。
絹目の泡の間から覗く彼女の胸元、その頂点で存在を主張するピンク色の果実。自分の手の平がほんの少し前までそこへ触れていたかと思うと、自分の下半身を突き抜けた衝撃で少年の頭はクラクラする。
「……ねぇ？」
少女は小さく身じろぎし、愛撫の続きをねだる。精一杯、顔を真っ赤にして。
さくらは見つけてしまったのだ。鏡の中の自分と向き合うような距離で。
ギラギラと自分を求める彼の瞳の奥に、ほんのわずかな戸惑いの色が浮かんでいることを。
一途な彼が感じているだろう罪悪感を想像して、さくらは精一杯の気持ちを送る。濡れた瞳に載せて。
（……キライになったりしないよ。絶対、大丈夫だよ。むしろ……）
淫らな欲望に魅入られてしまったのは彼女なのかもしれない。
「さくら…………」
少年は熱に浮かされたように呟き、彼女の背中へ自分の胸板を密着させた。
愛らしい、愛おしくて堪らない彼女。こんな姿の彼女を誰にも見せたくない、自分だけで独り占めにしたい、彼女の全てを奪いたい。そんな果てのない欲望が少年の心をゆっくりと浸食し、甘噛みし、彼自身を限界まで反り返らせた。
彼女がもっと欲望に忠実に、自分を求めてくれるまで。
明確な愛撫のおねだりを聞くまで。
待っていられる余裕は彼にはもうなかった。彼女のその熱視線だけですっかり魅了されていたから。
再開される愛撫。
少年の左手の指が再び、少女の胸へ這わされる。
「あぁぁ……ん…」
彼の反り返った怒張は、彼女の背骨やお尻の感触を楽しむよう、小さな律動を繰り返す。正確には彼女の腰もそれを手助けするように動いていたのだが。
そして右手は徐々に下りながら、前身頃を白い泡で包んでいく。可愛らしいおヘソをくすぐり、腰のくびれを堪能して、彼の右手はいよいよ下腹部から彼女の股の間へ滑り降りていく。右耳へ息を吹きかけ、軽くその耳たぶを舐めてやると、そこを覆っていた右手の緊張はすぐに解けた。
「んぅ…」
内股に付いた白い泡を掬(すく)い、絹糸を解(ほど)くように、優しく彼女の右手を退けさせる。
ゴクリ…。
小狼の喉が鳴る。連動する股間の屹立。
さくらのヴィーナスの丘が少年の目に晒された。
うっすらと産毛程度にしか生えていないハチミツ色の草原。今の目線では見えないが、その向こうに息づく熱を指先が確かに感じ取っている。
「…行くよ…」
嗄(か)れかけた喉からようやくそれだけを絞り出し、そっと手の平全体でそこを包み込むように触る。
「んん！」
それまでの肌とは違う弾力。吸い付くと言うよりは弾かれるようなプニプニとした感触。幾度となく確かめたその場所の手触りを忘れないのに、触れる度、新しい感動が生まれる。
小狼の身体の中を熱いモノが込み上げていく。
そこをやわやわと揉みほぐすよう、力を加えず指の顫動(せんどう)だけで洗っていく少年の右手。
二重(ふたえ)に膨らむ恥丘を直線に割っている一本の筋。普段は固く閉じられているその割れ目はもうわずかに綻(ほころ)び、白い泡以外の粘液でしとどに濡れている。
彼はその割れ目に沿って、すっかり滑らかになった指をゆっくり往復させる。
「ひ…はぁ…あ…あぁ…あん…」
瞳を閉じた眉間にシワを寄せ、さくらが喘いでいる。曇りかけの鏡に映るその顔。羞恥に染まり、淫魔に魅入られた表情。
蠱惑的で、扇情的で、愛おしくて、壊したくて。
堪らず彼の唇が白いうなじを啄んだ。
彼の指に促されて、さくらの秘部が少しずつくつろがれていく。
指先の感触からも分かる。若々しい果実が熟して軟らかくなるように。彼女の秘部が綻(ほころ)び開いていく様が。
彼女の泉からこんこんと湧き出した愛液はもう椅子の座面に、浴室の床に小さな水たまりを作っている。
少年は親指と薬指、小指を器用に使ってさくらの秘部を割り広げた。
「ふああああぁぁぁぁ……」
外気に晒されるひんやりとした感覚が、そこを広げるペースと同じ速度で背筋を這い上っていく。太股の上で強張ったままだった右手が思わず彼の右手首を掴んだ。止めるでもなく、促すでもなく。無意識下の羞恥が彼女にそうさせたのだろう。左手も彼女のおヘソの上で彼の手と重なり合っている。
覗き込みたい衝撃に駆られる自分を押しとどめる小狼。リビングで見た光景を思い出して、その欲望を誤魔化す。花のように開かれた少女の秘部は桜色に染まっているはずだ。
少年の指で大きくくつろげられたそこは、内側の花びらと共に隠されていた小さな突起も秘めやかな入口も全て露わになっている。
小狼は右手の残った人差し指と中指で内側の花びらの縁をなぞって肉襞に馴染ませていく。溢れかえる蜜をまとわりつかせることも忘れない。
「あっ！ あんっ……！」
２本の指が敏感な襞を擦る度、さくらの喘ぎ声が再び大きくなる。
適度に指が馴染み滑りが良くなったことを確認すると、その人差し指の腹を内側の花びらの中心に添える。ピクンとさくらのお腹が波打った。
そのまま指へ力を込める。
少しずつ少しずつ、その桜色の秘肉を広げるように。傷つけないように、指を沈めていく。
「くぅぅぅ――……」
切なげに眉間にシワを寄せ、少女は次々押し寄せるその感覚を必至に受け止める。
小刻みに震える内股。お腹の奥を押し上げてくるくすぐったさと熱さを混ぜて何倍にも濃縮したような甘い痛み。肺の中を窒息しそうなほど満たしていく吐息と喘ぎ声。そして身体の、下腹部の内側でくすぶっている炎の存在。彼女の身体が快楽の海へ沈んでいく。
人差し指が全て彼女の膣内(なか)へ飲み込まれたことを確かめると、小狼は一度その動きを止めた。秘密の花園が蠢く感覚を味わう。
温かく滑り、優しく強く人差し指を締め付けてくる感覚。ここにこれから自分の陰茎が包まれることを想像する。さくらの腰と自分のお腹の間でそれがピクンと自己主張した。彼女に自分の想像がバレてしまったかもしれないが、かえって好都合かもしれない。
小狼は自分の欲望の命ずるまま人差し指の抽送を開始した。
「あはっ…しゃおっ…ら……」
始めは深呼吸をするようにゆっくりとストロークを刻む。二、三度それを繰り返すと、彼はいきなり中指も挿入した。
「ふひぁぁぁんっ！」
さくらの喘ぎ声が１オクターブ跳ね上がる。発情した猫のような鳴き声。
「あはぁんっ！ や…こん…声……ううん！」
浴室特有の反響が彼女の甘い悲鳴を倍加させている。さくらは恥ずかしさのあまり口を閉じようとするが、激しくなる彼の指の動きがそれを許してくれない。時折広げたり、くの字に曲げたりしてさくらの中を隅々まで攻め立てる。
「ひぁっ！ ふぅんっ！ ふぁ……」
甘い嬌声と秘所から溢れ出す蜜の淫らな水音が、ハーモニーとなって浴室中を満たしていく。その一声一声が小狼の欲望の炎へ油となって注がれる。
彼は胸の愛撫から離れ、彼女が椅子からずり落ちないよう支えていた左手を、彼女のお尻へ移動させた。丸みと張りを楽しむように左側の臀部と谷間の辺りをしばらくウロウロしていたその指は、いきなりその奥に進んだ。
「ひぁっ！！」
そこは口に出すこともはばかれる、お尻の谷間の奥にある秘孔。さくらの秘所から溢れ出た蜜ですっかり滑りの良くなったその表面を小狼の指がなぞっている。指の腹で皺の一本一本を丹念になぞり、秘めやかなすぼまりの表面をマッサージしている。
「しゃぉ…ら！ んくっ！」
閉じた瞳の奥で何かが閃く。今までノーマルに愛し合ってきた彼女にとってそこへの不意打ちは、
（……ヘンタイさん、みたいだよ……）
だが、そこを弄られる恐怖と背徳感の向こう側に、それ以上のむず痒い快楽と興味が確かにある。
「ひっ…くぅん！」
控えめながらさくらの腰がうねり始める。
いつの間にか万歳をするような格好で彼の首へ巻き付けられた彼女の両手の力が強まる。そうしていなければ、椅子から腰がずり落ちてしまいそうだ。小狼も両腕で挟み込むようにしてさくらの身体を支えている。
膣口をほじる度、お尻の秘孔を撫でる度、指を締め付ける強さが増し、すぼまりの収縮するピッチが短くなっていく。彼女の絶頂が近い。
それは小狼にとっても同じ。このまま彼女をイカせてあげても良いけれど、透明な液体を止めどなく溢れさせている己の亀頭が許してくれそうにない。彼女を責めていた指の動きを少しずつ緩めていく。
「……さくら、イキたい？」
スンスンとしゃくり上げながら小さく頷く少女。激しかった攻めが弱くなったことで、彼女の身体は失った分の快感を得ようと切ない悲鳴を上げている。“イク”と言うことがどういう事なのかまだよく理解していないさくらだが、それが身体を苛(さいな)むもどかしさ、心を締め付ける切なさを解消してくれる魔法の言葉であることを少女は知っている。
「オレも……」
小狼は自らの分身を彼女の腰へ擦りつけた。
「だから……」
小狼は彼女の右耳へ唇を寄せ、ボソボソと息を吹きかける。
わずかな間を空けて、端から銀色の糸を引いていた唇がキュッと閉じられた。
彼の息が耳に掛かるくすぐったさよりも、その内容でさくらの身は固くなる。
数瞬の後、少女は小さく頷く。
少年の顔が嬉しそうに、けれどもサディスティックに歪んだ。
小狼は首に巻き付いた彼女の両手の拘束を解かせると、お尻の谷間へ沈めていた左手で彼女のお腹を支え、身体を持ち上げてやる。
腰砕けになっていた彼女も少年の助けを借り、両手を浴室の壁へ付けた。
小狼に向かってお尻を突き出す格好。目の前には２人の秘め事を見つめ続けている鏡。
膣内(なか)へ挿入したままだった右手を一端引き抜き、それをガイドにして彼は己のいきり立ったモノを花開いた入口へ押し当てた。
脈打つ彼女の花びらの感触が先端から感じられる。絡みついていく粘度の高い液体。高まる熱と脈動。胸が苦しい。心臓が２つになったようだ。自分の身体その物が彼女を欲している。猛々しく屹立した自分自身は触れてもいないのに、パンパンに張り詰めている。
「……行くぞ」
さくらの返事を待たず、小狼は彼女の膣内(なか)へ侵入を開始した。彼ももう限界だったのだ。
「んんんぅぅぅぅ――――…………」
顎が自然に持ち上がり、唇が強く結ばれる。
身体の中心を圧倒的な質量と熱が貫いていく。たかだか２０センチ弱の肉棒なのに、何という充足感だろう。欠けていた部分を満たしてくれたソレを、さくらの蜜壷は更に貪ろうと蠢く。締め付け、搾り取ろうと蠕動(ぜんどう)する。
少年は少女のリクエストに応えるようゆっくり腰を動かし始める。
指の時と同じように、深呼吸をするように、剛直を引き抜き、再び挿入する。
彼のソレが引き抜かれる感覚がダイレクトに頭の奥をくすぐり揺さぶる。指の比ではない。
「ふはぁ…！ うん！ んぁあ！」
引き抜けばそれを離すまいと柔襞がガッチリとくわえ込み、押し込めば更に奥へ導くよう締め上げてくる。この上もない快感。
「うはぁ…はぁ…くぅふ…」
小狼は夢中になって腰を動かした。さくらの柳腰を逃がさないよう、両手でしっかり固定する。チラチラ見える後ろの秘孔や、花びらの中で勃起している陰核にまで意識が回らない。身体から滴った汗と、彼女の身体から拭きだした汗が白い背中の上で混ざり合い、媚薬となって少年の鼻腔をくすぐる。
肉同士が弾き合う音と、その間から漏れる卑猥な水音がリズミカルに繰り返され、スタッカートの聞いた彼女の甘い嬌声と彼の激しい息遣いがハーモニーを添える。
恥じらいも痛みも、優しさも労りも、理性も快楽さえも、混ざり合い融けていく。
２人の心に溢れかえっているのは、大好きな人と深く繋がりたい、一つになりたいという純粋な想い。
小狼は残っていた邪(よこしま)な理性をかき集め、最後の引き金を引き絞った。
「…さくらぁ…鏡…見てみろ…」
言われるまま、彼女は閉じていた瞳を開いた。
鏡の中の自分と目が合う。
（…わ、私。こんなエッチな顔して……）
真っ赤に上気した顔。トロンと蕩けた瞳。半開きの唇。誰にも見せられない、小狼だけが見られる淫欲の表情。
（…涎も…涙も…止まらないの…小狼くん…！）
鏡の向こうの少年も、自分と同じような顔で真っ直ぐこちらを見ている。
さくらはその時安らぎを感じた。多分それは鏡の中の想い人を心の底から信頼できた証し。
彼女は最後の理性の紐を手放した。
「あはぁぁんっ！ しゃっしゃおらっ…くっ…！！」
「さっくらぁっ！ さくらぁっ！」
濃厚な愛蜜に侵された意識の中、お互いに名前を叫び合う。リビングに響くほどの声で。
「わたっ…さくらっ！ どっか行っちゃうのっ！！ さくら飛んじゃうっ！！」
「行くぞぉっ！ 行っ…け…さくぅっっ…！！」
限界までピッチが上がる小狼の腰遣い。
そして。
さくらの柔襞が最も強く小狼自身を締め上げ。
小狼の肉棒が思い切り深く衝き込まれた。
「イクゥゥゥゥゥゥ―――ッッ！！」
「ウアアァァァァ――ッッ！！」
２人の頭の中で張り詰めていたモノが白く弾けた。
パンパンに赤黒く膨らんだ亀頭から生命の証しがぶちまけられる。さくらの白いお尻や背中が更に白く染った。
間一髪、小狼はソレを引き抜き膣内(なか)での爆発を防いだのだ。
そのまま腰砕けになる彼女を抱え込むように支えながら、尻餅をつく。
『はぁ…はぁ…はぁ…』
気怠い呼気が浴室内で木霊する。
身じろぎをすると２人の身体の間で汗や白濁でベトベトになったモノが塗り広がった。その感触はちょっと気持ち悪いけどその滑りがどこか心地良い。
小狼はさくらの汗ばんだおでこへ軽いキス落とした。彼女の息も絶え絶えの満足げな表情が柔らかく緩む。
まだ鼓動は収まらないけれど、満ち足りた安らかな気持ち。
お互いを最も近くで感じられ、絆を確かめ合えたことが。
大きな満足感として、心の一番大切な場所に刻めたから。
「はぁ…はぁ…。ありがとう」
微笑む小狼。
「はぁ…はぁ…。どういたしまして」
微笑み返すさくら。
お互いにクスリと笑い合い。
瞳の合わせ鏡に映った愛しい人の姿を、瞼の奥にそっとしまい込み、２人は口づけを交わした。
それから、呼吸が落ち着くまでお互いを抱き合っていた。
母親が子供を寝かしつけるよう、身体をさすりながら。
汗とか色んなモノでちょっとベタベタしてたけど。
それもまた愛の証し。
その後、汗みずくになった身体を２人は一緒に洗い流した。そこでまた硬くなり始めていた小狼自身を見止めたさくらは呆れて小さく息を吐く。
男の子は本当にエッチだ。どこまで行ったら満足してくれるのだろう。
でも言い換えればそれは、好きな人をどこまでも好きになっていけると言う事なのかもしれない。
羨ましくて。
ちょっぴり悔しくて。
自分もそうなりたいと思って。
でもそんなにエッチになることがまだ恥ずかしいさくらは、
小さく拗ねてエッチすぎる小狼を困らせるのだった。
それは自分もいつかそうなりたいと思う心の裏返し――。