2.
「フ――……」
桶に張ったお湯を頭からかぶり、一息つく小狼。
椅子に腰を下ろし、腰には薄いグリーンのタオルを巻いている。あれだけ散々見られたのだから、いまさらのような気もするが、少年はそれを巻く事を選択した。前の一部分だけが小さく盛り上がってはいるものの、こうしておけば己の欲望の象徴を見なくてすむからだ。まだそれをしっかりと直視できるほど彼は大人ではなかった。
「…………」
目の前の、湯気でうっすら曇った鏡に、脱衣所の様子が映り込んでいる。磨りガラスの扉の向こうで靴下を脱いでいるさくらの、肌色の柔らかな輪郭が妙に生めかしくて。恥ずかしいからと先に自分を浴室へ押し込んだのは、間違いだったのではないかと少年は思った。リビングでの出来事とさっきの上目遣いのさくらの顔がオーバーラップし、あらぬ妄想が膨らんでいく。ついでに自分の息子も。
彼女の前では情けなさと自責の念で一杯だった頭の中が、一人きりになった途端、彼女を犯すように貪るイメージで一杯になってしまう。
だからこそ、少年はタオルで欲望の権化を覆い隠したのだ。暴走する自分の性欲を抑えるために。ついで股間へ延びそうになる己の右手には拳を握らせた。更にそこへ左手を添える。
「どうしたの？ 右手痛い？」
「ッ、ウワッ！」
突然、背後からかけられた声にビックリし、振り返って小狼はもう一度ビックリした。
そこには真っ白いタオルで前だけを隠したさくらが覗き込むようにして膝立ちになっている。
「お、お前、いつからそこに」
「？ 入るねって言ったよ」
どうやら妄想に浸っていたせいで聞こえなかったようだ。小狼の頭の中は再び後悔と自責の念で満たされる。
「それよりも右手、どうしたの」
「ナ、ナンデモナイ」
しどろもどろになり応える小狼だが、心配そうに覗き込んでくる彼女の胸の谷間は彼の股間を直撃していた。さくらに他意がないだけに小狼の心中は余計、欲望と自責の念で板挟みになる。
「無理しないでね」
「ああ……………」
念を押してからさくらは顔を引っ込めた。
なぜ小狼が拳を握っていたのか。さくらが複雑な男の子の心理を理解するためには、まだ時間が必要のようだ。
小狼は握っていた拳を解き、もう一度、お湯を被ろうと桶に手を伸ばす。
「あ、それ。借りてもいい？」
「ん」
言われるまま小狼は桶を、身体をひねってさくらへ渡す。畳んだタオルを置く彼女の手が見えただけで胸の鼓動は高鳴る一方だが、必至に冷静を装った。
勢いよくお湯の流れる音がする。想像してはいけないと自分に言い聞かせながら、頭に浮かぶのはお湯を滴らせる彼女の艶姿。少年は背後の気配にいささか恐れながら固まっていた。
さくらは身体に付いたモノを流し軽く身体を温めてから、湯船のお湯をもう１杯、桶ですくい上げる。
「まずは頭から。ね」
膝立ちになった彼女は、彼のつむじを見下ろしながら言った。
「いいよ。自分で洗うから、お前は早く」
「いいの」
小狼の早口を制し、さくらは優しく続けた。
「小狼くんの疲れを癒やしてあげたいから。私にやらせて」
どこか宣言にも似た彼女の口調を聞いてしまっては小狼も抵抗できない。
「…………分かった。頼む」
素直にさくらのセリフに従った。
「ん。じゃシャンプーとリンス、取ってくれる？」
「ああ」
頼まれ、小狼はそれらが入った容器を手渡した。身体をひねった瞬間、さくらのお腹のくびれがチラリと目に映る。少年の腰に巻かれたタオルの膨張がピクリと上下した。
さくらも一瞬だけ、小狼の視線を感じつつ、何事もなかったようにそれを受け取り適量のシャンプーを手の平に取る。
「行くよ♪」
軽く彼の髪に馴染ませてから、ゆっくり指を動かしていく。時折、立ち上ってくる小狼の「いいにおい」を楽しむさくら。丁寧な指遣いで彼女は彼の髪を洗っていった。
少女の繊細な指が髪と頭皮に優しく触れる感覚にいつしか小狼は身を任せている。タオルの膨らみは小さくなり、リラックスした様子で軽く目を閉じている。人に髪を洗われるのはこんなに心地良いのかと初めて実感していた。
「小狼くんの髪ってキレイだよねー」
ふとさくらが素直な感想を漏らす。ダークブラウンのその髪は、太陽の光で本当に宝石のように輝くときがある。ちょっとした時にそれがフワッと優しく膨らむ瞬間がさくらは好きだった。
「ありがとう」
褒められて悪い気はしない。少年は素直にお礼を返す。
「でも、お前の髪もその、キレイだ」
彼の思わぬセリフが桜色だった少女の頬を赤く染め上げる。何度言われても好きな人から「キレイ」と言われるのは嬉しくて、くすぐったい。
さくらは彼の髪をもっと丁寧に、念入りに洗ってあげることでその言葉に応えたのだった。
「いーい？ 流すよ」
彼の髪に馴染ませたリンスを素早く流し、洗髪は完了。
続いては少年の身体だ。
ここでさくらは端と気が付いた。
（……スポンジ、どうしよう）
自宅で身体を洗うときにはいつも知世から教えてもらった木目の細かいスポンジを使っているのだが、どうやらここにはそう言ったものはないらしい。小狼らしく使ったシャンプーやリンスは既にキチンと元の場所へ片付けられている。
（じゃ、コレで良いよね）
目に留まったのは浴槽の縁に置いておいた自分のタオル。お湯を被る前に素肌へ充てていたものだから、もしかするとあらぬモノが付いてしまっているかもしれないけれど。
少女はそれを桶に張ったお湯で軽くすすぐ。
「石けん、借りてもいい？」
「……ほら」
少年から受け取った石けんをタオルへ擦りつけ、泡立てる。
（大丈夫だよね）
泡にまみれたタオルを左腕に当て、感触を確かめて。
「行くよ、小狼くん」
遠慮がちに彼の背中へ押しつけた。
「どう？」
「もう少し強くても大丈夫だ」
「ん、分かった」
髪を洗ったときと同じように、さくらは一心不乱にタオルを動かした。
上下するタオルの感触が心地良い。小狼はすっかり性的な欲求を忘れ、その軟らかい心地良さに酔いしれていた。漂ってくる石けんの薫りはいつもと同じはずなのに、何かもっと芳しいものに感じる。何よりもさくらがこんなに尽くしてくれることに小狼は小さな感動を覚えていた。
背中から首周り、肩、両腕へとタオルは洗い進んでいく。やっぱり男の子だなぁと、さくらは愛されている時とは違った意味で実感する。彼の背中は広く、しなやかに見えた両腕にもしっかりと筋肉が付いている。それは脚、胸板、お腹と洗い進めていっても同様だった。何も付けていないのが恥ずかしいからと彼の背中側から回した手に、確かな手応えが返ってくる。どこか中性的な印象があった彼の中に男性としての力強さを感じた。
小狼にとってもそれは逆の意味で同じ事だった。背中から手を回すと言う不自然な体勢で洗われていれば、当然のように彼女の２つの膨らみは背中に当たる。しかも先端は確実に自己主張を始めているのだ。否が応でもさくらが女性だと意識させられ、彼の官能を刺激する。忘れかけていたイケナイ妄想が頭をもたげ、小狼のオトコのコは静かにタオルを押し上げていった。
ようやく小狼の身体を一通り洗い終えたさくらは、ついに最後の場所へ手を伸ばす。
「あとは…ココだけ…だね」
言い終わらぬうちに彼女は彼の腰に巻かれたタオルを手早く取り去ってしまった。
「アッ！ さく、ら…」
小狼は無防備になった自分のモノを慌てて両手で覆い隠した。
「……さくら。さすがにココは」
振り返り彼女の魅惑的な肢体を見たことで、彼の怒張は意思に反し益々抑えられ無くなっていく。
「小狼くん……」
恥ずかしそうに顔を赤らめ小さくなる彼を、さくらはこの上もなく可愛いと思う。刺激されたのは保護欲と悪戯心。愛しさが募り、彼の両手の中にあるソレを気持ち良くしてあげたいという想いが少女の心に沸き上がってくる。
もちろん、ソレを自分から洗ってあげるのは、とても恥ずかしい。
でもさくらは心に決めていたのだ。自らが彼をお風呂に誘った時点で。彼を隅々までキレイにし、癒やし満足させてあげようと。
彼の両手に上から自分の両手を添え、
「いいの。私が全部、キレイにしてあげるから」
耳元で優しく囁いた。
振り返る小狼の深いブラウンの瞳を、さくらの澄んだ翠色の瞳が射る。一生懸命顔を赤らめて。ほんの少し瞳を潤ませながら。
「さくら…………」
リビングでは天使のように心を満たしてくれた瞳が今は不思議な魔力を持っている。その奥には親友にも見せない、少年だけが知っている妖しい光りがかすかに揺らめいていたのかもしれない。
それに魅了されるよう、小狼の腕の力が抜けた。
さくらは彼の両手をそっと退けさせる。すると天を衝くようにたくましく立ち上がった彼のオトコのコが彼女の視線に晒された。
こんなに明るいところで見るのも、見られるのも初めてかもしれない。
少年は無意識のうちに、ソレをピクリと動かしてしまう。
「…………あ」
自分の欲望が見透かされているようで、小狼は情けない気持ちになった。
「…………」
いつまでも見ていてははしたないと思ったのか。さくらは一度、小狼から離れ、無言のまま両手を石けんで泡立てる。そして恐る恐るソレへ両手を伸ばした。
背中にさくらの軟らかい２つの膨らみが触れた感触でピクリと小狼の柱が動く。
「ぅ、ぁ……」
ゆっくりと自分自身が泡と彼女の手の平の中に包まれていく感覚。泡のぬめりとさくらの細い指が何とも言えない気持ち良さを生む。思わず小狼の身体が震えた。
「いくよ……」
どこか凄味のある掠れた声で合図をし、さくらは静かに両手を動かし始める。
右手に力を込めると、その硬度は更に高まった。
「んぅ……」
自分で触るときには味わったことのない新鮮な感覚が背筋を這い上がっていく。
少女の右手は浮き出た血管の凹凸さえも確かめるよう優しく洗い上げ、根本の方をさすっていた左手はその更に下にある革袋へ。まるで腫れ物を触るように優しく優しく揉みほぐしていく。
「ど、お？ 気持ち良い？」
「ぁ、ああ……」
問い掛ける声も応える声も上擦っている。
背中越しに感じる彼女の乳首の主張とその奥の鼓動。
泡と指の間から感じる彼の張り詰めた興奮と脈動。
「く、ぅ……」
「うふふ……」
鏡に映った小狼の切なそうな顔を見て、さくらが妖しい笑みを浮かべる。
いつも隙がなく、クールで強気な小狼がこんな可愛い表情を見せてくれる。しかもその気持ち良さを与えてあげているのは自分の指。さくらの首の後ろをゾクゾクとした、小狼と深いキスを交わしたときにも似た感覚が走る。
もっと気持ち良くしてあげたい。
もっと彼の可愛い表情が見てみたい。
そしてもっと……。
さくらの心が小狼を求める欲望で少しずつ艶取(いろど)られていく。
泡の滑りを利用して、彼女の右手は包皮を赤く充血した先端部の境をなぞるように。左手は触れるか触れないかの繊細なタッチに。
少女は気付いていなかったが少年の先端部からは、尿とは異なった透明な粘液が滲み始めていた。
「剥くよ？ ……小狼くん」
「え？ ……うあぁ！」
さくらは小狼の肉柱のちょうど首の辺りを左手でそっとつまむと、襟巻きのようにその周りを覆っていた包皮を右手でゆっくりと引き下ろしていく。敏感な部分が外気に晒される甘い痛みに小狼は、喉の奥が締め付けられているような、痛痒いような感覚を覚える。
「くっ！」
完全に露出した頭の部分を彼女が優しく撫でてやれば、少年は切なそうに眉間にシワを寄せる。
「カワイイ…………」
口を突いて出たさくらの本音。その裏に隠された小さなサディズムの発露を、彼女の瞳が代弁している。
いつもの小狼ならとっくに可愛いと言われることを訂正していただろうが、今の彼はそれどころではない。主導権は完全にさくらが握っていた。
「“ココ”は特にキレイにしておかないとね……」
わずかに“ココ”を強調することで彼女は知らず知らずのうち、言葉でも彼を攻め立てていた。小狼の想像の中では“ココ”を注視するさくらの瞳が妖しく光る。
知世から教わった知識を元に、首の縁の部分から裏側の筋にかけて、右の人差し指で優しくすくい上げる。続いて、先端部の割れたところから左右それぞれの膨らみの曲線を確かめるよう、指を這わせていく。
「あ、あぁ……」
剥き出しにされ、赤く充血した肉の頭部から次々襲ってくる甘い痛みを伴う快感。それが小狼の理性を甘く浸食していく。彼女がなぜそれほどまでの知識とテクニックを持っているのか。小狼にはもう、その疑問を差し挟む余裕はない。股間の一点から送り込まれる快楽をただ享受するだけだ。
さくらは更に右手の指を総動員して肉柱のくびれから先を包み込むようにして磨き上げ、もう一方の左手はしっかりと竿の部分を愛でてやる。
「さ、さくらぁ…もう…」
少年の切ない声が自分の名前を紡いだとき、少女の心臓が何かに鷲掴みにされる。切なくて苦しくて、でもそれを快楽と感じてしまう倒錯的な喜びが彼女の胃の奥を揺する。
絶え間なく続く至上の快楽は小狼の理性も何もかも融かしきっていた。彼の亀頭は今にも爆発しそうなほど血流を集中させている。もうすぐ快楽の最高点がやってくる。身体の奥底から蠢く熱い塊が上昇してくるのを感じた。
「さくら、さくら……」
うわごとのように至上の快楽を与えてくれる愛しい人の名前を繰り返し、小狼は来るべき瞬間に向けて身構えた。
その時。
「ハイ、おしまい……」
さくらは唐突に小狼の肉茎から指を離してしまった。
「ぅえ？」
頂上に達する寸前で現実に放り出された小狼は、意外な声を上げた。
てっきり最後まで連れて行ってくれると思っていた彼の欲棒は、未満がましく快感を求めるよう二度、三度と痙攣するが、望むモノは得られず粘性の高い透明な液体が、ごく少量、滴るだけだった。
「さ、さくら…？」
首をひねり、背後のさくらを見る小狼。
「ん？」
いかにもするべき事、洗うべきところは全て終わったよと言いたげに、小首を傾げる彼女。その表情はちょっぴり上気しているけれどもいつもと変わらない微笑みを浮かべている。
ただしその瞳には何かを企んでいるような妖しい光りが小さく宿る。
「あ、あの…」
少年はうすうす勘付いていた。彼女がわざと途中でその指を離したことを。それは多分、さくらの悪戯心なんだろうけれど。快楽の淵からいきなり現実に引き戻された彼には、それを咎める余裕すらない。
「もっと…洗って…くれ…」
憐憫な表情さえ浮かべ、少年は顔を真っ赤にして快楽をねだった。
「小狼くん…」
捨てられた子犬が訴えてくるような瞳。最初は彼があまりに可愛くて、ちょっとした悪戯のつもりだったけれど。さくらの中の小さなサディズムがチクチクと刺激される。
彼からおねだりされることが少ない彼女にとって、それは新鮮な気持ちだった。子供にねだられる母親の気持ちと、男の子が好きな女の子をいじめる気持ちが同時に分かったような気がする。一つ間違えれば彼も自分も壊れてしまうそれは、光と闇、希望と無の関係に似ているのかもしれない。
先程、手を離した唐突さで今度は、小狼の背中に自分の胸を押しつけ、耳へ息を吹きかけるようにして囁く。
「いいよ、はっきり言って……」
「う……」
萎えかけていた小狼自身がピクリと反応する。
小狼は情けなさと切なさが綯い交ぜになったような心境で自分が今一番望むものを告げた。
「さ、最後まで、出させて…さくら」
耳を澄まさなければ聞こえないような囁き。それは小狼にとって小さな小さなマゾヒズムの発露。自分がこんな淫らなセリフを言っている、彼女がこんな淫らなセリフを言わせている。そんな背徳感が、なぜか少し心地良い。
少年が少女に初めて見せた切ないような、もどかしいような、可愛さの溢れて仕方のない表情。
さくらはそれを真摯に受け止め、優しく微笑んだ。紛う事なき天使の微笑み。
「うん、ゴメンね。ちゃんとイカせてあげる」
意味を想像するとあまりに淫らなセリフが小狼の耳元で囁かれた。少年は安堵した表情を浮かべるが、すぐ眉間に切ないシワを寄せた。
「う…ぁ…」
さくらが再び彼のシャフトへ手を伸ばしたからだ。
半勃起状態だったそれは一気に、先程よりも更に硬く張り詰めた。
素直に反応してくれる彼に益々愛しさが募る。さくらは自分の身体をもっと小狼に擦りつけ、右手は肉柱へ、左手は革袋に優しく触れ、愛撫していく。
「気持ち良い、よ、…さくらぁ」
お預けを喰らっていた小狼はここぞとばかり、再び与えられた快楽を貪った。両脚は突っ張り、腰はわずかに浮き上がっている。
さくらは更に、右手をシャフトをしごき上げるような動きに変え、左手は首辺りから先をひねるような動きに変えた。
泡の滑りの中で、その亀頭がパンパンに膨れあがっているのが分かる。
「ほら、イッていいよ。小狼くん」
少女の黄色い声が淫らな誘惑で耳の奥をくすぐった。
次々と流し込まれる快楽の中に、さくらの愛しさと優しさと激しさが垣間見える。
小狼くんが大好きだから。
小狼くんの喜んだ顔が見たいから。
小狼くんを気持ち良くさせてあげたいから。
今の彼女を突き動かしているのは、愛しい人を思う、純粋な気持ち。
もう彼女の指遣いに焦らすような手加減はなく、彼をイカせるために全力が注がれている。彼の中を駆けめぐる快感は激しさを増す一方だ。
「さ、さくら…………」
小狼はもうこれ以上はないくらいに硬くなった自らの欲棒に力を込め、この天国のような時間を少しでも長く貪ろうとしている。
「イッて、小狼くん」
手に伝わるそれの硬さと熱から、最後が近いことを感じ取ったさくらは、更にその動きを激しくした。
その刹那。
小狼の背筋を今までにない快感のパルスが駆け抜けていった。
「うぁっ！ さくぅぅぅぅぅっっっ――…………」
四肢を突っ張り、腰を突き上げ、切ない呻き声を上げて小狼は究極の快楽、絶頂に達した。
激しく突き出された小狼の肉茎の先端からは、その快楽の証しが発射される。粘りけのある尾を引き、タイル張りの浴室の壁や床を白く汚していく。
「うあぁぁぁぁ………」
小狼が絶頂に達してもさくらの指遣いは止まらず、最後の一滴まで絞りだそうとしていた。それも全て少年を気持ち良くさせてあげたいという気持ちから。自分の指にその白濁した粘液がまとわりつくことも構わず、彼に快楽を与えようとしているかのようだった。
「はぁぁぁぁ………」
ようやく放出が終わり、目を閉じてその余韻に身を任せている小狼。
「気持ち良かった？ 小狼くん」
さくらは体重を預けてくる小狼を支えながら、ゆっくりとその上体を自らの身体で包み込むようにして支えてあげる。覗き込んだ顔はうっすら赤く染まり恍惚の表情を浮かべ、嬉しそうでもある。
それを見て世界一愛しい人を気持ち良くさせてあげられた喜びが込み上げてくる。
（小狼くんて、あんなに可愛い表情するんだ）
おねだりをする彼の顔を回想し、やりすぎたかもとちょっぴり反省するさくら。
でもそれはまた少女しか知らない彼の秘密の顔が一つ増えたことでもあるわけで、嬉しさについ顔が綻んでしまうのだった。
「ありがとう……、さくら」
小狼は至上の幸せと快楽を与えてくれた少女の頭を抱き寄せ、感謝の気持ちを込めて唇を重ねる。
「ん…」
お互いに唇が上下逆さまではあったけれど。数秒足らずの、軽く触れるだけのシンプルなキス。少年が今の気持ちを表すにはそれで充分だった。
「…………クス」
「…………フ」
目が合うと２人は小さく笑い合った。
「…………それじゃ次は、俺の番だな」
「え？」
突然、起き上がり向き直った小狼の行動をさくらは面食らったような顔で見つめる。
「俺が洗ってやる」
真っ直ぐ瞳を射る彼の揺らぎのない眼差し。
さくらの身体の奥が小さく響(とよ)めいた。