幸せのらせん : Man and WoMEn

TWINKLE STAFF Fragment 007
BGM:CHAGE and ASKA「Man and Woman」

 お風呂上がり――。
 少女は頬を赤く染め、親友の指遣いに全てを委ねている。
「……どう? フェイトちゃん?」
 優しく、選ぶように紡がれる親友の言葉。
「ん、気持ちいいよ。なのは」
 答える少女は感じたままに、素直に自分の感想を声に乗せる。
 相手を慕い、敬い、慈しむ気持ちが溢れ、周囲の空気を甘く染め上げている。
 それはまさに愛情の結界のようであり、乙女だけが持つ近寄りがたい独特の雰囲気を醸し出している。
 ハラオウン家のリビングではお馴染みになりつつある光景。
 少女フェイトは親友のなのはに、髪をくしけずられる心地良い時間を堪能していた。

 バスタオルを使って丹念に水分を拭き取ったフェイトの髪へ、なのははガラス細工を扱うように、丁寧に丁寧に櫛を入れる。手にした黄金色の一房を優しく愛おしむように、緩やかな手つきでくしけずっていく。数度、それを繰り返した後、また別の一房を集め、手の平から指へと流す。黄金色の滝のような小さな流れとなって、自分の元へ滑り降りた髪をなのははまた同じように梳く。
 メレンゲか、はたまたマシュマロに包まれたような一時(ひととき)。
 櫛が通り抜ける度に、自分の髪が揺れ動き、舞い踊る。時折それ以外の力、彼女の吐息が毛先を揺らめかせる。シャンプーの匂いと相俟(あいま)ったその香ばしい微風は、鼻腔を甘く爽やかにくすぐる。
 背中に感じる彼女の気配。流れる指遣いが実感させてくれる彼女の心遣い。自分の心の中でそれを追っていると、まるで彼女と気持ちが同調(シンクロ)していくようで。
 このままずっとこうしていたい――――。
 そんな小さな欲望を胸の内に秘めたまま。
 目を閉じ、子供の寝顔のような表情を浮かべ、フェイトは至福の時間を一心不乱に味わっている。

 傍らでその様子を見守るアルフもまた、フェイトと同じような表情を浮かべていた。
 忙(せわ)しない管理局の仕事の反対側で、何気なく過ぎていく日常の幸せ。フェイトが一番願っていた、アルフが一番望んでいた探し物の答えが今、目の前の一瞬、一瞬を過ぎていく。こんなにも幸せで良いのだろうか。精神リンクを介して漏れてくるフェイトの心情が、アルフの表情を柔らかく緩ませる。
 多分、これで良いのだろう。いつも胸のどこかで引っ掛かっていた一抹の不安が影を潜めていく。フェイトの笑顔がそれを薄めてくれる。彼女が笑っていれば自分は幸せなのだ。
 なのはと、彼女に関わる全ての人が居る限り、この幸せは続いていくだろう。
 あわよくば、これが永遠となってくれることを――。

「ハァ――――…………♪ 堪能したぁ――――…………♪」
 ふと生クリームのように甘い溜め息が奥から漏れてきた。思考の中断されたアルフが静かにそちらを見やる。
 現れた声の主エイミィは恍惚の表情を浮かべ、Tシャツにホットパンツといういつも以上にラフな出で立ちであった。お風呂好きの彼女にとって入浴は何よりの至福であり、その後は気も弛むのだろう。ほのかに茹で上がった素肌や、Tシャツの薄い布地から透けるシルエットが健康美を振りまいている。もし健全な男の子が同じ屋根の下にいたら確実に目の毒となっていた事だろう。
「上がったかい?」
「う〜ん♪ アルフも一緒に入れば良かったのにねぇ〜♪」
 彼女は頭の中まですっかり茹で上がっているようで、間延びした声しか返ってこない。
「アタシはいつもと同じ最後でいいさね」
 アルフはエイミィの言動に苦笑しつつ答える。残念な事に彼女が入った後はどんなに気を付けていても大量の抜け毛が湯舟に散乱してしまうのだ。後始末さえしてくれれば構わないとクロノ達は言ってくれるのだが、アルフにとってはそれ自体が肩身の狭い事実に変わりはなく。お互いに余計な気を遣わないためにアルフの入浴順は、いつしか一番最後というのがハラオウン家での、暗黙の了解になりつつあった。
「勿体な〜〜い……」
 この世の終わりのような声を上げながらエイミィは、そのままアルフの前を素通りしてキッチンへ向かった。

 そこでは今日の当番であるクロノが5人分の夕食の準備に勤しんでいる。
 フライパンを操りながら彼はチラリと一度だけ、キッチンに入ってきたエイミィを見たが特に何も言わず嘆息するだけ。長い付き合いの2人にとってはお馴染みの光景なのだろう。
 彼女は目的の飲み物が入ったボトルを難なく手にし、中身をコップに注いで踵を返す。リビングへ戻りかけ、ふと他の3人の飲み物も持って行ってあげようと思い立った。その切っ掛けは背中に視線を感じた事だったのだが……。
 気のせいだったようだ。クロノの背中に張り付いた蝶々結びを確認して、エイミィはリビングに戻っていった。4つのコップとボトルをトレイに載せて。

 リビングでは相変わらず桃色の空気が漂っている。
 2人の間の隙間が先程より縮まっているように見えるのは、気のせいではないだろう。
 女の子同士ではごく当たり前のスキンシップだと思うけど、あの2人に関してはそれが少々、過剰に見えなくもない。
「飲み物、持って来たよぉ〜♪」
 相変わらず間延びした声のままエイミィは告げる。
「「「ありがとう」」ございます」
 3つの声が唱和する。しかし2人の少女は髪を梳かし、梳かされる行為に夢中でエイミィを見る事はなかった。
「フ♪」
 エイミィは面白そうに微笑み、それ以上は何も言わない。
 床にトレイを置き、2つのコップを手に取る。そのままアルフの近くへゆっくりと腰を下ろした。
「ハイ♪ アルフの」
「ありがとよ」
 そういって冷たく冷えた炭酸飲料を手渡した。
「あの2人、いつも仲いいね♪」
「ああ。良い事だよ」
 アルフが手渡されたコップから一口。ノドで弾ける泡が清々しい。
「本当。なのはちゃんのお陰だね。あんな良い笑顔を見せるようになったのは。あの娘が」
 エイミィもしみじみと同意し、炭酸を一口。
 見れば見るほどその光景は中の良い姉妹にも似て。
 耳へ自然に融け込んでくる黄色い声は、微笑ましいほどに心地良く。
 いつの間にかエイミィもアルフやフェイトと同じような表情を浮かべていた。

「…………フェイトちゃんの髪ってスゴくキレイだよね」
 何気なくなのはがその手触りを確かめる。
 親友の心地良い柔らかな吐息にその黄金色の穂波を揺らされながら、彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「……そんな事、ないよ…………」
「ううん。スゴくキレイだよ
 ねぇ、エイミィさんもそう思うでしょ」
 すぐ近くでアルフと談笑していた彼女の姉(になるかもしれない人物)に同意を求める。
「うん! 私もそう思うなぁ〜。羨ましいくらいキレイだよねぇ。長い髪って手入れがスゴく大変なのに」
 エイミィが感嘆の吐息を漏らしながら、フェイトの髪を見つめる。
「……………」
 フェイトはさらに赤くなって節目がちに答える。
「あ、ありがと…………」
 ――私は特別な手入れはしてないと思うけど。
 だから余計に気恥ずかしくなって俯いてしまう。
 ――髪を洗うのはいまだに苦手だし、普段は一緒に入ってくれた家族が進んで洗ってくれるし……。
 今日のようになのはが泊まりに来た日には、大抵彼女が率先して洗ってくれていた。フェイトの髪の性質なら全て知っていると言うくらいだから、褒められるのはフェイトの髪の綺麗さより、むしろなのはのテクニックのような…。
「…フ。
 そうだねぇ、長い髪ってのは、手間が掛かってしょうがないよ」
 アルフが自分の髪を一房、手にしながらしみじみと語った。
「手入れは欠かせないし、入念に繊細に扱わないとすぐ機嫌を損ねちまう。
 前はよく代わり番こに梳かし方を工夫したもんさね。なぁ、フェイト」
「うん」
「そうなんですか?」
 なのはがアルフの髪をまじまじと見つめた。そういえばアルフの髪の長さはフェイトと同じくらい。
「フェイトは気付いてなかったみたいだけど、長い髪の美しさはそれを世話する者の心を現すのさ」
「へぇ……」
 なのはは感心して手の中にあるフェイトの髪を見つめる。
「なんか分かるなぁ。
 美由希ちゃんに聞いたら、えと日本人? の黒髪は特に手間が掛かるんだってね」
「それは初耳です。お姉ちゃん、そんなに大変そうには…」
「うん。だからアルフの言葉も納得できるのですよ。
 世話が焼けて、手間が掛かる。だからこそ女の子は心を込めて、願いを込めて髪を梳かす。この世界では“髪は女の命”という理由はそこにある。
 …なんちゃって」
 なのははふと動かしていた手を止め、フェイトの髪を指の間に通す。遊ばせる。綺麗で繊細な黄金色。絹よりも滑らかに流れていくそのしなやかさは、彼女の誠実さも現しているよう。
「そうか…。フェイトちゃんの髪がキレイなのはフェイトちゃんだからなんだね」
 納得したように嬉しそうな声を上げるなのは。
「え? でも私は髪を洗うのは苦手で…」
 ――キレイなのは、なのはや皆のお陰…。
「うん。だからフェイトちゃんが皆に大切に思われているから、こんなキレイな髪なんだよ」
 ――そう言われれば……。
「ああ、それはあるよ。特になのはが洗ってくれた後はね」
 アルフがフェイトにウインクをする。少女はまた顔を赤らめ俯く。思い当たる節がありすぎるから。
「そっかー。やっぱりなのはちゃんの愛情が一番かぁー……」
 エイミィがちょっぴりからかうようにコロコロと笑う。
「にゃはは…。なんか照れちゃうなぁ。ね? フェイトちゃん」
 横顔を覗き込むとフェイトはリンゴのように真っ赤になって小さく小さく頷いた。
「恥ずかしがる事ないよ、フェイト。
 そのキレイな髪は皆から大切にされている、フェイトが皆にとって大切な存在の証しさね。胸を張って自慢できる事だよ」
「……そう、だね」
 アルフの言葉を受け、フェイトは今度は大きく頷いた。

「本当にフェイトは皆に大切にされているんだな」
 ふと水のように打たれた声へ、その場の全員が注目する。ある者は顔全体を向け、またある者は耳だけを傾けて。
「クロノくん」
「どしたんだい急に」
 唐突に現れたクロノへしげしげとした視線が向けられる。
「夕食の準備が出来たから呼んだんだが。誰も答えなかったのでね」
 そう少し低めの声で告げ、話しの中心にいた2人を見つめる。
「いつも済まない、なのは。
 早くフェイトも1人で髪を洗えるようになってくれれば良いのだけど」
 そう言って兄クロノは、チラリとエイミィ、アルフの順に一瞥し、夢見心地の妹を見やる。
 フェイトは一瞬だけクロノと視線を合わせたが、すぐにまた親友の指遣いを堪能するため、目を閉じた。
 その場を満たしていた愛情のベクトルが少しだけ方向を変える。
 アルフとエイミィは顔を見合わせ、呆れたように小さく肩を竦(すく)めた。
 11歳になった今も、フェイトが洗髪を苦手としているのは相変わらず。
「にゃはは…。
 私はフェイトちゃんの髪を洗うのも、こうやって梳(と)かしてあげるのも好きだよ?」
 なのはが強張った空気を取りなすよう嬉しそうに告げ、フェイトの口角も緩む。
「それは分かっているんだが、それじゃいつまで経っても変わらないじゃないか。
 本人にやらせなくては」
 と、クロノは如何にもそれらしい言い回しで、妹の弱点克服を促そうとする。
 彼に言わせれば、なのはの言葉は甘やかし以外の何物でもないのだから。
 もちろん、フェイトだって分かっている。クロノがセリフの端に暗に忍ばせた愛情の道標と、その意味を。
 だからだろう。愛情の深さについ甘えたくなってしまう。幼い子供が近しい者にもっと構ってもらおうとする時のように。
 彼女はちょっぴり拗ねたように顎を上向かせ、少しだけきつめの口調で答えた。
 自分の心を罫書(けが)く小さなトゲを気にしながら。
「大丈夫。ちょっとずつだけど慣れてきたから。
 それより今はこうやってスキンシップを図る方が大事だと思うんだ」
 そう言って頬を膨らませるフェイト。
 それは主にクロノへ向けて発した、彼女の甘えたい気持ちの裏返し。
 チクリと小さなトゲが自身の心に痛みをもたらす。
 エイミィは両者の顔を見比べながら、静観を決め込んでいる。
 アルフはもう一度肩を竦(すく)める。主人の心のさざめきが何によるものか分かっているから彼女には何も言えない。
 クロノも小さな溜め息を漏らしながらそれ以上、反論が出来なかった。兄として彼女の人となりをよく知っているから。
 フェイトが誰かの温もり、特になのはの温もりを求める事に対してどんな想いを持っているか、理解していればこそ、それ以上は何も言えなくなってしまう。
 一時(ひととき)、沈黙が時間を掠めていく。
「……えと、私は両方とも大切な事だと思うけど…?」
 会話から置き去りにされたなのはが、そっとその沈黙に沿えるよう言葉を発した。
「私は、フェイトちゃんの髪を洗うのも梳かす(と)のも好きだよ。さっきも言ったけど。こうやってフェイトちゃんの髪を触ってる間は、とっても気持ちが近づいてるような気がするから。
 でも、フェイトちゃんには自分の苦手を一つ一つ克服していって欲しいし、そういうフェイトちゃんも私は好きだなぁ。
 髪を洗えるのが少なくなっちゃうのは、ちょっと残念だけど」
 話す間も手を休める事はなく、より気持ちを込めて、フェイトの髪に櫛を通すなのは。柔らかく微笑む彼女の表情を見ていると、天の邪鬼な想いが交錯する兄妹喧嘩などどこかへ行ってしまうようだ。
 すっかり毒気を抜かれて、クロノは自分の妹へ投げかけた言葉が虚しく思えてくる。むしろ自分がこんな喧嘩を吹っかけるような真似をした事が不思議で。
 けれども自分の言葉が正しいと思えるのは変わらない。
「フー…。
 まぁ、フェイト。君の事を信用していない訳ではないし、なのはもこう言ってるから大丈夫だとは思うけど。これは男の僕では手を差し伸べにくい事だから、一応、注意だけはしたぞ」
 少年は呆れたような言い回しをしながら、妹を見下ろしている。
 少女はまだ頬を膨らませたまま、兄を見上げる。それは不本意な気持ちのはずだけど、真面目な彼女の性格がそうさせるのだろう。
 これもまた愛情に溢れ、愛憎の入り交じりやすい家族の会話風景。
 お互いに放(はな)ってしまった言葉、示してしまった態度を変えるに変えられず、微妙な空気が漂う。
『アルフさん……』
 なのはは助けを乞うようにアルフへ視線を送るが、当の彼女は肩を竦める(すく)だけ。「放って置いても心配ないよ」と言いたげだ。
 再び落とし込まれる一瞬の沈黙。
 その空気を切り裂いたセリフは全く予想外の所から飛んできた。
「ハイハーイッ! そこの“お兄ちゃん”!」
 4人の会話の外から、調子の良い声が響く。
「“妹に構ってもらいたい作戦”が玉砕したんだから、素直に引き下がってこっちを手伝ってちょーだい!」
 それはいつの間にかキッチンへ移動していたエイミィの声。
「なっ!? エイミィッ! 僕がいつそんな作戦をっ!」
「なんて言うか、君たち兄妹の会話はね、とってももどかしいって言うかこそばゆいの!
 もっと素直になりな、クロノくん。本当は君が可愛い妹に髪の洗い方を教えたいんでしょっ!」
「誰がっ! いつっ! そんな事を言っ…!」
「君が。今。ここで。
 そう態度に出てたよ?」
 少年の狼狽ぶりをぴしゃりとはね除け、彼女は核心を突いた。
 慌てるクロノは真っ赤になった顔を片手で覆う。
 ――自分の心の奥底が見透かされたような。確かにそういう頼られたいという願望があるのかもしれない。客観的に今の自分の行動を思い返すとまるで――。
 チラリと横目で盗み見れば、アルフは呆れたような、面白い物を見えるような含み笑いを浮かべて、喜楽を表すしっぽがゆらり、ゆらり。
 ――これではまるで、大事な妹を誰かに取られまいとするシスコ…。
「自分の罪が理解できたなら、こっちに来て償いなさい! 後は並べるだけなんでしょ?」
 まるで検事か何かのように、フライ返しをビシッと少年に突き付けるエイミィ。その顔はとても楽しそうだ。
「…………」
 意地を通しても、素直に従っても、今のクロノに逃げ場はない。どちらにしろ“妹を溺愛する兄”という称号を回避する手段は無さそうだ。
「にゅふふ…。
 ほらクロノ。その贖罪(しよくざい)どうこうはともかくとして、エイミィが手伝って欲しいってんだ」
「あ、ああ…」
 クロノはアルフに促されて渋々、エイミィの元へ。今夜の自分の仕事場へと戻る。
 ちょっぴり寂しそうにフェイトは離れていくクロノの横顔を追いかける。何となく気まずくなったけど、別にクロノの事が嫌であんな言い方をしたんじゃなくて…。
「大丈夫。クロノくんはフェイトちゃんに怒ってるんじゃないよ」
 クロノの横顔を追いかけていたフェイトの横顔を追いかけるなのはが告げる。
「そうそう。アレはクロノなりの愛情表現なんだよ」
「「アルフ」さん…」
 立ち上がったアルフを見上げる2人。
「ああ見えてちょっと寂しいんだろうな、クロノは」
「え?」
「最近、クロノはずっと出突っ張りだろ? 今日はああしてここにいるけど」
 アルフが顎で指し示した先ではクロノがエイミィと揉めながらも、夕餉の配膳を進めている。
「なんでも917号? 次元世界で何かゴタゴタがあるらしくてね。
 長期間の出向になるかもってエイミィは話してたし」
「そう、なんだ」
 フェイトは納得がいった表情で頷いた。
(それならそうと言ってくれればいいのに……)
 それがクロノなりの優しさと知っていても、フェイトにとっては寂しい事だった。
 クロノの言動はその裏返しなのだろう。確かにさっきの兄の様子は構いたくて、構われたくて仕方がないという風に取れなくもなくて。
「初めて会った頃のクロノからはちょっと考えられないけど、ね」
 アルフは静かにその要因となった少女の顔を見る。
「……そっか。こんなに可愛い妹が出来ればそれもしょうがないよね?」
 なのはがにっこりとフェイトに微笑みかける。
「ぅぁ――――…………」
 フェイトの顔が首から上に向かって一気に赤くなる。
「良かったねフェイトちゃん!」
「ぅぁ、うん、ぁ、あの…」
「クロノはちょっと不器用な所が多いけど、ちゃんと可愛い妹の事を思ってるんだよ」
「クロノ……」
 エイミィにからかわれ、真っ赤になっているクロノを真っ直ぐ見据えるフェイト。
 少女は自分が望み、探し求めていた宝物の1つに。その輪の中に今、自分がいる事を噛みしめる。
「ご飯だよー!」
「ハーイ!」
 そして、
「あ、待ってフェイトちゃん。簡単にまとめちゃうから」
 そして今の今まで、さらにこれらも自分を一番に想ってくれるもう1つの宝物。
「……なのは」
 自分が一番大切に想っている少女(ひと)。
「ん?」
「夕ご飯が終わったら続き。私にもなのはの髪…」
「うん! ありがとうフェイトちゃん」
 満面の笑みを返してくれる彼女へ、少女もありったけの笑顔で答えた。
 贅沢な願いとは分かっていても、願わずにはいられない。
 この幸せが永遠に続きますように。
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