仔猫の呟き

プロローグ

 クリスマスイヴの夜――。
 恋人たち、子どもたちが楽しむ夜に、
 ボクはユーウツな気持ちだった。
 「はぁ…。今年も一人っきりかぁ…」
 お兄ちゃんは、お酒のはいったグラスを片手に、そうつぶやいた。
 ふと夜空を見上げる仕草も、
 なんか、さびしい…。

 チリリン…。

 ストーブでヌクヌクしていたボクは、お兄ちゃんにかけよって優しくほおずり。
 元気だして!
 「ん…。ハハハ、俺のことわかってくれんのは、お前だけだな。レイ」
 お兄ちゃんもやさしく、ボクの頭をなでてくれる。
 「でもよぉ、お前もクリスマスは彼氏と居たいだろ?」

 ナァーン、ゴロゴロ…。

 ボクは、お兄ちゃんと一緒ならいいの。
 もう一度、やさしくほおずり。
 「…優しいな、お前は……」
 ウン、ボクは優しいん……?
 ???
 ………なんで?
 なんで、そんな悲しい顔するの? お兄ちゃん…。
 ボクはやさしくしてるんだよ?
 お兄ちゃんをキズ付けるなんて…。
 「…お前みたいな彼女が居てくれたらなぁ…」
 ……そっか…。
 ボクは、窓にうつっている自分の姿を確認した。
 そこにいるのは……茶虎の子猫。
 カワイイ真っ赤なリボンをつけて、
 大きな銀色の鈴。
 そう…、ボクはネコなんだ。
 人間じゃない…。
 お兄ちゃんもボクみたいなネコの女の子より、
 人間の女の子の方がいいに決まってるよね…。
 もし、
 もし、お兄ちゃんに彼女が居たら、
 今頃は2人と1匹でクリスマスをすごしているんだろうなぁ……。
 ………………。
 ……ヤダ。
 そんなのやっぱりヤダ。
 ボクはお兄ちゃんと2人っきりがいい!
 ボクが人間だったら……。
 ボクが人間だったら、お兄ちゃんと2人っきり………。
 !!
 そうだ! ボクが人間だったらいいんだぁ!
 そうだよ、今日はクリスマスイヴだし。
 サンタさんが1つだけ願い事を叶えてくれるんだ。
 「…あ、流れ星…」
 えっ…?
 鮮やかな夜空に、一筋、銀色の帯が走る。
 「玲、お前も何かお願いしておけ、サンタさんに。きっと叶うぞ」
 ウン!
 ……サンタさん、お願いです。
 どうかボクを、
 ボクを人間にして下さい。
 そしたら、お兄ちゃんと一緒にクリスマスを過ごせるから…。
 サンタさん。お願いします…。
 すると、まるでボクのお願いを聞いてくれたみたいに、
 その流れ星がキラめいた。
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