Wish 1 -to X'mas-
「美星先生も気がはやいよね。もうクリスマスの準備なんて。」
「うん、そうだね♪」
美紗緒と砂沙美の２人は、いつものように話しながら家路を急いでいた。
季節は１１月中旬。
すでに風はするどく冷たい。
今日は美紗緒だけでなく、いつも元気な砂沙美でも厚着をしている。
「美紗緒ちゃんはクリスマス、どうするの？」
「え？ ……う…ん…」
ヒュゥ――――……。
不意に２人の間を冷たい風が吹きぬけていった。
「……寒い」
反射的に身をすくめる美紗緒。
「寒いの？ 美紗緒ちゃん」
砂沙美は心配になって、すぐに体を寄せる。
「ううん。だいじょうぶ……」
そう言いつつも、美紗緒の頬はほんのり赤く染まり、その寒さを示していた。
それに気付いた砂沙美はさらに体を寄せる。
そして……。
フワッ……。
自分の首に巻いていたマフラーをはずし、片方を自分に、もう片方を美紗緒に巻いてあげた。
突然のことに、美紗緒は驚いて砂沙美を見る。
「これなら寒くないよね！」
満面の笑みで美紗緒に答える。
「ありがとう…砂沙美ちゃん」
美紗緒もほほえみを返した。
２人は無言のまま、互いの体温を感じながら歩いていく。
とても、とても温かい気持ちで……。
「ねぇ、美紗緒ちゃん♪」
「なに砂沙美ちゃん」
ほほえんで答えた美紗緒は、すぐ間近にある砂沙美の唇を見て、少し鼓動がはやくなるのを感じた。
「美星先生が言ってた“交換用プレゼント”って、明日、一緒に探しに行かない？」
「明日？」
「そう、明日。ちょうど日曜日だし」
「………う…ん…」
「？ 美紗緒ちゃん？」
美紗緒は急にうつむいて、モジモジと口ごもってしまう。
「どうしたの？ ひょっとして明日、なんか用事が入ってた？」
「…………う…ん…」
間近にいる砂沙美でも、わからないくらいの小さな声で美紗緒は答えた。心なしか頬がさらに赤くなっている。
「ねぇ、何の用事？」
「……るークンに…その…デートしようって……」
「えっ！ そうなの！？」
思わず大きな声を上げる砂沙美。
てっきり、美紗緒のママとの用事だと思っていた砂沙美は、心底驚いてしまった。
美紗緒の横顔をマジマジと見つめ直してしまう。
「ふぅ〜ん。そうなんだ。あのるークンが…」
恋愛にうとい砂沙美はいつも、２人に憧れとちょっぴりの嫉妬心を感じていた。
魎皇鬼と自分では、なかなかイイ感じになんないなぁと考え込んでしまう。
砂沙美もはやく美紗緒たちのようになりたいと、いつも願っていたのだ。
そこで、砂沙美は１つの妙案を思いつく。
「それならさ、美紗緒ちゃん。砂沙美が魎ちゃんを連れてくから、美紗緒ちゃんもるークンを連れてきて、４人でＷデートしない？」
「え？ Ｗデート？」
今度は美紗緒の方が驚く。
同時に彼女の頭の中には、４人で買い物に行った時の様子が浮かんだ。
留魅耶と２人きりの時に感じる“ドキドキ”が好き…。
だけど、４人で行く買い物の“楽しさ”も感じてみたい。
普段、買い物に行くことの少ない彼女にしてみれば、それはとても魅力的なこと……。
「………いいよ」
美紗緒が選択したのは“楽しさ”だった。
「じゃあ、詳しいことはあとで電話するから」
そう言って砂沙美はマフラーを美紗緒にあずけ、自宅へ跳んで帰った。
美紗緒も明日の打ち合わせのために部屋に来てくれているはずの、少年の元へ急いだ。
＊ ＊ ＊
日曜日の朝――。
天気は晴れ。
この時季にはめずらしく暖かい。
美紗緒、砂沙美、留魅耶、魎皇鬼の４人は、ペンギン大王公園に集まっていた。
美紗緒は臙脂のプリーツスカートに、生成り色のダッフルコートを羽織っている。コートとおそろいの毛糸の帽子がかわいい。
一方、砂沙美はピンクに水色の模様が入ったハイネックセーターに、デニムのパンツ。今日おろし立てのランニングシューズは、目にも心地よい。
留魅耶、魎皇鬼の２人は地球の男の子と変わらない、フツーの格好をしている。
何気なくガールフレンドとペアルックというのが、狙い目だろうか。
「はい、砂沙美ちゃん。昨日のマフラー」
「ありがとう。………ウフ、美紗緒ちゃんのにおいが残ってる」
砂沙美は、マフラーに残る美紗緒の薫りを吸いこんだ。
「やだ…砂沙美ちゃん……」
美紗緒がはにかんでほほえむ。
「……ポッ」
そのしぐさに留魅耶は早速、撃沈されていた。
「ねぇ、砂沙美ちゃん！ はやく“電車”に乗ろうよぉ！」
魎皇鬼は初めて乗れる電車にワクワクして、落ちつきがない。
「よーしっ！ それじゃレッツゴーッ！！」
『オーッ！！』
砂沙美の声を合図に４人は駅へ向かった。
電車にゆられて１時間ほど……。
そのデパートは駅を出てすぐの所にある。
地上１２階、総ガラス張りの建物はこの周囲でもっとも目立っている。
「わぁーっ！！ すごぉーいっ！！」
「きれいだね、砂沙美ちゃん」
『はぁー……』
４人はそのデパートを見上げて、思わず驚きの声を上げた。
特に魎皇鬼と留魅耶は、初めて見る精悍で巨大な建物に、ため息をつくばかり。
入り口のショーウィンドウには、“今年の新作”と題されたかわいい冬服や、クリスマス向けのきれいなドレスが飾られていた。
その横にはクリスマスツリーが鮮やかに光り輝いている。
「ねぇ！ 砂沙美ちゃん！ はやく行こうよ！」
「うん！！」
魎皇鬼と砂沙美がかけだす。
「私たちも行こう、るークン」
「……うん」
美紗緒は赤くなっている留魅耶の、手をそっとにぎって砂沙美たちのあとを追った。
４人のたのしいデパートめぐりがはじまる。
まずは化粧品やアクセサリーのコーナー。
「砂沙美ちゃん、この指輪、どうかな？」
「うん、かわいい！
るークンにおねだりしてみたらぁ？」
『えっ！？』
留魅耶と美紗緒が同時に声を上げる。
「ウソウソ。ちょっとまだ、砂沙美たちには無理だもんね」
恨めしそうにショーケースをのぞき込む砂沙美。
「そうだね…」
すっかり、美紗緒と砂沙美はショーケースのアクセサリーに魅入られてしまった。
魎皇鬼と留魅耶は、無理なお願いをされるんじゃないかと、ヒヤヒヤしながら待っていた。
「よーし！ 次行ってみよー！！」
『はぁー……』
魎皇鬼たちはタップリ２時間をかけて、全部のショーケースを連れまわされた。
次は洋服のコーナー。
このデパート自慢のコーナーで子供服からタキシード、ウェディングドレスまでそろっている。
ほかにもピ〇チュウになれるパジャマから、魔法少女のコスチュームまでも整然と並べられていた。
「美紗緒ちゃん、コレ………」
「……サミーと…、ミサの……だよね」
キョトンとしたまま、しばらくその服を見つめる。
やがて、２人はゆっくりと顔を見合わせほほえんだ……。
「どう？ 砂沙美ちゃん。準備できたぁ？」
「ちょっと待って！ 魎ちゃん！」
「美紗緒も、そろそろいいかい？」
「…もうちょっと……」
留魅耶と魎皇鬼は、更衣室のまえで何度もこのやりとりをしている。
砂沙美の提案で、“ガールフレンド・ボーイフレンドに着てほしい服”をお互いに選び、着てみることになったのだ。
まずは美紗緒と砂沙美。
シャア――！！
「どうかな…。魎ちゃん」
「うわぁ…！ かわいいよ砂沙美ちゃん！ お姫さまみたいだ」
「…………」
そこには、留魅耶までも見とれるほどのかわいさがある。
砂沙美が着ているのは、ピンクを基調としたワンピースのドレスで、たくさんのフリルがつけられている。
胸元はハート型に開けられている。
ドレスとペアの髪飾りがかわいさを演出している。
「えへへ…………」
魎皇鬼にほめられて、砂沙美の顔がゆるむ。
シャア――……。
続いて出てきた美紗緒に、３人は思わず息をのむ…。
「……どう？ るークン……」
「…………キレイ…だよ…。……美紗緒」
「……うん」
「わぁー……！」
美紗緒が着ているのは深い紫色のドレス。
砂沙美のドレスとは違い、しっとりとした落ちつきを持っている。
大きく露出した肩や背中が、大人の雰囲気を醸し出し、美紗緒の白い肌はドレスの色とあいまって、よりいっそう引き立っていた。
その柔肌に留魅耶は魅入ってしまう。
「……やだ……そんなに見ないで……」
仕切りのカーテンで体を隠す美紗緒。
顔が赤みをおびている。
「あ、ゴメン美紗緒…」
留魅耶もつられて赤くなる。
砂沙美はそんな２人のしぐさをうらやましそうに見つめていた。
「じゃあ！ 今度は魎ちゃんとるークンの番だよ！ ………えーとね。こっちはるークンの！」
「……こっちは魎くんの。はい」
渡された２人は首をかしげる。
「僕のは美紗緒が選んでくれるんじゃなかったの？」
魎皇鬼の頭にも同じ疑問が浮かんだ。
「まっ、いいからいいから！」
そう言って砂沙美は２人をむりやり、更衣室に押し込んだ。
しばらくして、まず魎皇鬼が更衣室から出てきた。
「砂沙美ちゃん、どうかな？」
「なんか…大人っぽくなったね☆ 魎ちゃん」
美紗緒が魎皇鬼に選んだ服はこげ茶色をベースにしたチョイスで、落ちつきとやわらかさを持っている。
上着のセーターはどことなく、優しいお兄さんをイメージさせた。
「ねぇ、ほんとにこれ着て出なきゃだめなの？」
カーテンの向こうから情けない留魅耶の声が聞こえる。
「そうだよ。はやく出てきてよるークン」
「砂沙美ちゃん。るークンにどんな服を選んだの？」
「うふふ…、見てのおたのしみ」
やがておずおずとカーテンを開けて、留魅耶が出てきた。
なんと、留魅耶が着せられたのは女の子用のドレス。
白を基調としたワンピースで、飾り気がなく清楚なイメージ。
少し肩幅が広いことをのぞけば、女の子と見間違えるほどだ。
「ヒドイよ砂沙美ちゃん。なんで僕がこんな……」
「いいじゃない。けっこう似合ってるよ。ね、美紗緒ちゃん」
「……うん、かわいい……（ゴメンね♪）」
「そんなぁ…。美紗緒までぇ…」
留魅耶は心の中で大粒の涙をながしていた。
それからは４人だけのファッションショーのように、いろんな服を次々と試着していった。
その後、スポーツ用品、電化製品、生活雑貨のコーナーをまわった後、お昼ゴハンを食べにレストランにむかった。
４人は最後に、魅惑のおもちゃコーナーに来ていた。
「わあっ！ あのぬいぐるみ、かわいいっ！！」
「ねぇ！ こんなのどう？ 砂沙美ちゃん！」
「うん！ 砂沙美、そういうのも好きだよ！」
砂沙美と魎皇鬼はカワイイぬいぐるみにおおはしゃぎ。
「たのしそうだね…」
「うん、なんかうらやましい…」
美紗緒は愛おしそうに目を細めた。
「………僕もプレゼントを探そうかな？」
「え？ ……誰の？」
「モチロン、美紗緒にだよ！ 決まってるじゃ…な…いか…」
「あ、ありがと……」
「いや、あの、その……」
美紗緒と留魅耶はお互いにうつむき合って真っ赤になってしまう。
「美紗緒ちゃんたちもはやくおいでよぉっ！」
手をふって砂沙美は２人に呼びかける。
「うん！ …るークン、行こ」
留魅耶は黙ってうなずき、美紗緒に手を引かれていった。
おもちゃコーナーはすでにクリスマス一色。
プレゼント用のグッズが所狭しと並べられている。
ぬいぐるみ、ヒーロー物の合体ロボット、魔法のバトン、アニメのビデオソフト、テレビゲームなどなど…。
見始めたらきりがないほどある。
それを片っ端から見ていくのだから、砂沙美たちのエネルギーはすさまじい。
ふと、美紗緒は壁に貼ってあるポスターに目をとめた。
「ねぇ！ 砂沙美ちゃん。コレ見て！」
「なになにっ？」
そこには大きなクリスマスツリーの絵が描いてある。
「屋上にあるクリスマスツリーだって。５時からライトアップするんだ」
「へえぇ…！ ５時になったら行ってみよっか？ 美紗緒ちゃん！」
「そうだね♪」
「フフ…。じゃ、次は上のゲームコーナーで遊ぼうよ！ 屋上もそのすぐ上だしさ！」
言うがはやいか、砂沙美はエスカレーターをかけ上っていく。
「まってよぉ！ 砂沙美ちゃぁん！ ここはもういいのぉ？」
美紗緒たちもその後を追ってかけだす。
おもちゃコーナーの上の階はゲームセンターになっていて、対戦格闘ゲームをはじめとした様々なゲーム台が置いてある。
休日にもかかわらず、それほど人はいない。
「美紗緒ちゃぁん！ こっち、こっち！」
砂沙美がまず目をつけたのはピ〇チュウのUFOキャッチャー。
「あ、カワイイ…」
「コレやってみよう」
チャリン。
取り出した１００円玉をゲーム台に滑り込ませる。
「えへへ…。砂沙美、コレ得意なんだ！ まずはあの右の端っこのヤツから…」
「がんばってね♪ 砂沙美ちゃん」
「まかせて☆」
ボタンを操作して、ゆっくりアームを近づけていく…………。
「よし！ つかんだ！」
アームが人形についているリングをはさんで運んでくる。
はずれるかどうかのギリギリのつかみ方だ。
「もうちょっと…、もうちょっと…」
「ガンバレ…、ガンバレ…」
２人はかたずをのんでアームの動きを見守る。
もう少しでゲットできるという時…。
「砂沙美ちゃん！ 僕と留魅耶はこっちのゲームで遊んでるからぁっ！」
「えっ！？」
砂沙美がふり向いた瞬間、ゲーム台が軽くゆれた。
「あっ…」
「あ――っ！！」
アームはせっかくの人形を落としてしまう。
「魎ちゃんのバカァァァァァァッ！！」
たまらず叫ぶ砂沙美。
それは魎皇鬼の頭の中で、エコーをともなってリピートされた。
「僕がなにをしたっていうんだよぅ……」
魎皇鬼は内心、泣きながらうなだれてしまう。
「砂沙美ちゃん。今のはちょっと言い過ぎじゃない？ 魎くんのせいじゃないと思うんだけど…」
「いいの！ せっかく取れそうだったのにぃ…。よぉし！ もう１回！」
砂沙美はもう１枚、１００円玉を取り出そうとサイフを開ける。
「アレ？ あと３枚しかないや…」
「どうしたの？ 砂沙美ちゃん」
「うん。もう１００円玉ないから両替してくるよ。その間、美紗緒ちゃんはここで遊んでて。はい」
そう言って残り３枚の１００円玉を美紗緒に手渡した。
「でも、私やったことないし…」
「何事もチャレンジだよ、美紗緒ちゃん。
それじゃ、ここで待っててね☆ すぐ戻ってくるから！」
砂沙美はかけ足で両替に行ってしまった。
…………。
（…………そうだよね。……よし、やってみよう）
美紗緒は心の中でそうつぶやき、お金を入れた。
砂沙美をまねてアームを操作していく。
狙いはさっき取り損ねたヤツだ。
「あ……」
アームは人形の少し手前をかすめた。
（結構、難しいんだ…）
美紗緒はもう１枚の１００円を入れて再びチャレンジする。
（さっきは少し手前だったから、今度はもっと向こう側へ…）
さっきよりも慎重にアームを操作する。
ふと、後ろに誰かが来たのを感じたけど、今の美紗緒に振り返る余裕はない。
そしてアームが人形のリングをつかんだ。
（お願い、落とさないで。ゆっくり、ゆっくり…）
彼女の想いが通じたのか、アームはゆっくり動いてくる…。
ポトンッ！
「取れた…！」
美紗緒は見事ピ〇チュウ人形をゲットした。
「砂沙美ちゃん！ やった！ 取れた…よ…」
てっきり後ろに居るものと思った砂沙美の姿はない……。
５分ほど待ってみても、砂沙美は戻ってこない。
両替に行ったにしては時間がかかっている。
（どうしたんだろ……？）
美紗緒の心に不安がよぎった。
留魅耶と魎皇鬼に聞いてみようにも、２人の姿も見えない。
「……ここで待ってれば、だいじょうぶだよね」
美紗緒は自分にそう言い聞かせて、このUFOキャッチャーの所で砂沙美を待つことにした。
しかし、１０分たち、２０分たち……、３０分たっても砂沙美は戻ってこない。
（どうしちゃったんだろ、砂沙美ちゃん……）
美紗緒の不安はますますふくらんでいく。
気を紛らわすためにもう１個人形を取ろうと、最後の１００円玉をゲーム台に滑り込ませた。
美紗緒も砂沙美に負けずこういうことは得意だ。
さっきの要領でアッという間にもう１個取れてしまった。
それでも、砂沙美はまだ帰ってこない。
「………砂沙美ちゃん」
美紗緒の不安はさらに募り、いよいよじっとしていられなくなってきた。
（…………あ）
不意に昔のいやな記憶がよみがえってくる。
あれはいつ頃だろう……。
ママと買い物にきていた時、同じように独りぼっちになったことがある。
とっても心細くて寂しくて……。
泣き出してしまった自分を、親切なおばあさんが助けてくれた。
今でもあのおばあさんの優しい笑顔はよく覚えている。
だけど今はホントに独りぼっち…。
「………捜しに行くしかなのかな」
美紗緒は砂沙美を探すため、勇気を奮い起こして歩き出した。
その頃、一方の砂沙美たちはというと…。
「アレ？ 砂沙美ちゃん。…美紗緒ちゃんは？」
「え？ だって魎ちゃんたちが近くにいたから大丈夫だろうと思って、両替に行って来たんだ」
砂沙美はさいふを開けて見せた。１００円玉が２０枚ほど入っている。
「途中で迷子のちっちゃい子とか、困ってるおじいさんとか居て、遅くなっちゃったけど…」
「僕たちは砂沙美ちゃんが美紗緒ちゃんについてくれてるんだと思って、いろいろなゲームをまわってきたんだけど…」
魎皇鬼が怪訝な顔で切り返した。
「…それじゃ…」
「美紗緒は今、１人！？」
３人の顔がとたんに青ざめる。
「美紗緒ちゃん！！」
「美紗緒ぉ！！」
３人は大急ぎであのUFOキャッチャーの所へ走った。
「……いないよ。砂沙美ちゃん」
「お手洗いかな」
「いずれにしても、美紗緒は１人なんだ。捜さなくちゃ！」
「うん！ じゃあ砂沙美はこっち、魎ちゃんはそっち。るークンはここで待ってて！ 美紗緒ちゃんが戻ってくるかもしれないから！」
「わかった」
「急ごう！ 砂沙美ちゃん！」
「うん！」
砂沙美と魎皇鬼は大声で美紗緒を呼びながら走っていった。
美紗緒はゲームコーナーの上の屋上にきていた。
もしかしたら、先に砂沙美が来ているかもしれないと思ったからだ。
けれども、屋上にいたのはツリーのイルミネーションを見にきた人たちだけだった。
なにより砂沙美が自分に断りもなく、勝手に行動しないことを美紗緒はよく知っている。
それでも唯一、砂沙美との約束があるのはこの場所だけ……。
「…５時になったら砂沙美ちゃん、ここに来るかな」
（それまで待ってみよう……）
美紗緒は、ほのかな希望を抱いて近くのベンチに腰を下ろした。
目の前にあるクリスマスツリーを見上げる。
本当に大きい。
高さは美紗緒の１０倍近くある。
イルミネーションがつけば、さぞかしキレイだろう。
美紗緒はツリーのてっぺんの先で輝いている星をじっと見つめ、砂沙美が来ることを願った。
５時まであと５分…。
「魎皇鬼！ 美紗緒は居たかぁっ！！」
「居なかった…」
申し訳なさそうに答える魎皇鬼に、留魅耶はガックリと肩を落とす。
「……あっ！ 砂沙美ちゃぁんっ！」
その名前を聞いてうなだれていた頭をはっと上げる留魅耶。
「砂沙美ちゃん！ 美紗緒は？ 美紗緒は？」
砂沙美は、黙ったまま首を横にふる。
「どこに行っちゃんだろう…」
魎皇鬼がポソッとつぶやいた。
「…………。
砂沙美がいけないんだ。美紗緒ちゃんを１人にしたから」
しゃべる言葉が少しずつ涙声になっていく。
「そんなことないよ！ 僕がいけなかったんだ。他のゲームの所に行っちゃったから」
魎皇鬼の声も同じように涙に濡れていく。
２人とも目も合わせられず、顔も上げようとしない。
「……２人とも！ 泣いている時間があったら美紗緒を捜そうよ！ 美紗緒は僕たちと違って独りぼっちなんだよ！」
見かねた留魅耶がわざと大声を出して２人に活を入れる。
「…うん！」
涙を拭いながら砂沙美は顔を上げた。
「そうだよ！ 泣いている場合じゃないよ砂沙美ちゃん！」
「魎ちゃんもでしょ…」
ほほえみで魎皇鬼は答えた。
柱の時計を見ると５時まであと４分足らず…。
「砂沙美ちゃん。美紗緒がどこか行きたがってた場所ってない？」
「うーん…」
腕組みをして考え込んでしまう。
美紗緒が自分からどこかに行きたいと言うことはめずらしいから、言われれば絶対に覚えている。
「または、あとで行ってみようって言ってた所とか…」
「！！ 屋上のクリスマスツリー！ あとで行ってみたいって言ってた！」
「それだっ！！ 行こう！ 美紗緒は屋上にいる！」
３人はお互いにうなずき合い、屋上へ向かった走り出した。
すでに時計の針は５時まで、残り３分を示していた。
「…砂沙美ちゃん、やっぱり無理なのかなぁ…」
美紗緒はひとつため息をつくと、視線を足下へ落とした。
周りの人たちはツリーのイルミネーションがつくのを待ちわびて騒いでいる。
その中にポツンと美紗緒だけが取り残されたかのようだ。
５時まであと２分……。
「ハァ、ハァ、やっと、着いた、ハァ、ハァ」
やっと砂沙美は屋上にたどり着いた。
エレベーターを待つのも惜しみ、全速力で走ってきたので、息が荒い。
「ハァ、ハァ、砂沙美ちゃん、速すぎるよ」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
あとから着いた魎皇鬼と留魅耶も同様だった。
３人の吐き出す息が白く染まる。
５時まであと１分。
「魎ちゃん、あっち、ハァ、るークンはそっち探して」
砂沙美は２人に指示を出してから、荒い息づかいのまま歩き出した。
魎皇鬼も留魅耶も砂沙美を見習い、足を引きずるように指示された方を探しに行く。
「ハァ、ハァ、美紗緒ちゃん、どこ？ 砂沙美は、ここだよ、ハァ、ハァ」
行けども行けども、美紗緒は見あたらない。
荒い息のまま足を引きずるように歩く砂沙美を、周りの人たちは怪訝そうに見つめるが、 本人はそんなことを気にする余裕はない。
「……美紗緒ちゃん…。美紗緒ちゃぁぁぁんっ！！」
砂沙美は大声で美紗緒の名を呼んだ。
「！ 砂沙美ちゃん！？」
美紗緒は驚いてベンチから立ち上がり、周囲を見回した。
声はしたのに砂沙美の姿は見えない。
「砂沙美ちゃん…」
単なる空耳と思い、美紗緒はもう一度ベンチに腰を下ろそうとした。
と、何気なくベンチへ振り返ると…。
……ベンチの、その向こう側に待ち焦がれていた砂沙美がいた。
「…美紗緒ちゃん」
「……砂沙美…ちゃん」
２人の目にみるみる涙がたまっていく。
「美紗緒ちゃぁんっ！！」
砂沙美は美紗緒に勢いよく抱きついた。
そのまま強く美紗緒を抱きしめる。
「ゴメンね。ゴメンね美紗緒ちゃん。寂しい想いさせて…」
砂沙美の瞳から大粒の涙がこぼれていく。
「ううん。私の方こそごめんなさい。待っててって言われたのに…」
２人はお互いの体を支えるように抱きしめ合っていた。
ぱあぁ………。
ちょうど…。
そんな２人を包み込むようにツリーのイルミネーションが灯る。
「わぁ…キレイ……」
「…………」
美紗緒は不思議そうな顔でツリーを見上げた。
「…砂沙美ちゃん」
しばらく抱き合ったままツリーを見上げていた美紗緒が話しかけた。
「…私、ホントはすごく寂しかったの。前にも１人になったことはあったけど、今日は本当に独りぼっちだったから…」
美紗緒は一言一言をかみしめるように話していく。
「だから…。だから１つ、お願いを聞いてくれる？」
砂沙美は本当に嬉しそうにほほえんだ。
「今年のクリスマスは……」
「美紗緒ぉぉぉっ！」
突然、声を遮るように留魅耶の声が響く。
「美紗緒ちゃぁぁぁんっ！」
美紗緒と砂沙美を見つけた魎皇鬼と留魅耶が走ってくる。
「美紗緒！ ゴメン！ 僕が勝手に……」
「ううん、いいの。るークンが心配してくれただけで嬉しい…」
ポッ……。
留魅耶の顔が耳まで真っ赤に染まる。
「砂沙美ちゃんの心配ぶりも見ていられなかったんだから…」
「うん。砂沙美ちゃん、ありがとう。それから…」
美紗緒は魎皇鬼の両手を握りしめ、
「魎ちゃんもありがとう」
「いやぁ…ははは…」
魎皇鬼は照れ笑いを浮かべながら頭をかいた。
「砂沙美ちゃん、今年のクリスマスはみんなで過ごそう。
私のパパとママだけじゃなくて、砂沙美ちゃんも、砂沙美ちゃんのパパ、ママも、魎ちゃんも、るークンも…。それから津名魅さんに、裸魅亜さんに…」
美紗緒はゆっくりと話を続ける。
「みんなでパーティー、しよう。こんな想いは絶対したくないから…」
「うん。これからはずっと一緒だよ！」
「僕たちもそうだよ。…魎皇鬼も」
「うん！」
「…ありがとう」
美紗緒は満面の笑みを浮かべる……。
ツリーのイルミネーションが、４人を鮮やかに包み込んでいた……。
