Fatal Attraction 2

　扉の前に立ち、コン、コン、コンと間を空けたノックを三回繰り返す。
　――――これが合図。
　これで私が帰ってきた事をなのはに知らせる。
　それからもう一つの事も……。
「……はぁい！」
　少し間を置いて、中から愛しい人の声が返ってくる。
　はやる気持ちを抑え、私はロックを解除し二人の共同部屋へ"帰宅"した。三日間のはずが、五日になってしまった出張を終え帰り着いた、私たちの場所。
　懐かしい薫りと、室内の景色が私の昂ぶった気持ちを一瞬、落ち着かせてくれる。
　けれど、それも彼女が姿を現すまで。
「お帰りなさい、フェイトちゃん」
　鼓膜に心地良いなのはの声を聞いた途端に、私の目は彼女の姿を余すところなく観察していた。
　そして確信を持って、後ろ手にドアをロックする。外の世界とこの部屋を隔離する。これでたとえはやてでも緊急時でなければこの扉を開く事は出来ない。
　なのはの顔が少しの驚きから、艶のある笑顔へ変貌する様を私は見逃さない。これも一つのスパイスだ。
　もう抑えきれなくなっている気持ちを、私は努めて作り上げた穏やかな笑顔の下に隠し、
「ただいま……。あの、なのは、ゴメン……」
　言葉までは制御しきれなかったらしい。考えるより先に声が上擦った。
「フ……。もうフェイトちゃん、謝らないの」
　そう言いながら頬を赤らめ、彼女は腰の結び目を解き、その場でエプロンを脱ぎ落とした。
　素肌にたった一枚だけ身につけているそれを。
「……いいよ」
　恥ずかしそうに目を伏せてから、まさに誘うような仕草で呟く彼女を、私は遠慮無く抱き締めた。力を込め、荒々しく。
　続け様、彼女の唇に自分のそれを重ねる。優しくなんかない。奪い取るように身体の赴くまま、本能に命令されるまま、私は彼女を貪る。
「うぐぅ…………ぅむ……、ぷはッ……」
「ハァ……ハァ……」
　一呼吸つき、一度唇を離した瞬間、彼女の髪の薫りと、潤ませた瞳が私の全てを捉える。
　足下で呆れ返っている旅行鞄を脇へ退け、彼女を押し倒す。着替えとかシャワーとかそんなのはどうでも良かった。今はただこの昂ぶった気持ちのまま、なのはを貪りたい。特にあんな凄惨な現場を見た後では、どんな精神安定剤より彼女の素肌が私を癒してくれる。彼女もそれを分かっているからあんな挑発的な格好で出迎えくれるのだ。
　――――間を空けた三回のノックを合図にして。
　程なくして、生まれたての子猫のような声が漏れ始め、それが廊下にまで聞こえやしないかというスリルを味わいながら、私は更に大きな声を上げさせようと、なのはを激しく求めた……。