バック・アタック・シンドローム

　ゴクリ……――。

　小狼の喉が鳴った。
　目の前にある、水色の固まりを見れば誰でもそうだろう。柔らかな曲線は素材のせいだけではない。触れればそれは更に実感できる。
　ただ、その水色の曲線に触れてしまうと、自分の中で何かが変わってしまうことを青年は悟っていた。
「本当に、いい……のか？」
　小狼は念を押すようにもう一度、恐る恐る問い掛ける。
　しばしの間を置いて、
「…………コクッ」
　と水色の曲線の先にある、はちみつ色の後頭部が大きく上下する様を小狼は確認した。
　改めて青年は目前の水色のワンピースに、妻の形の良い臀部に見入ってしまう。この水色のワンピースの裾を捲れば、そこには何も隠すものの無いさくらのヒップが現れるのだ。それを証明するように彼女の足首には、本人と同じように小さく丸まったランジェリーが覗いている。
　彼女なりに精一杯の努力をしたのだろう。その下着は全体こそ清楚な白でまとめられているが、所々に桜の花弁をあしらったピンク色の編み目模様が施され、向う側が透けている。最も肝心なクロッチ周辺、股の間は完全な編み目模様になっており、辛うじて薄い紗の花弁が局部を覆うように配されているらしい。だがそれとて水分を含めば確実に透けてしまうだろう。
　小狼はその様子を想像し、軽い目眩を覚えた。
　さくららしからぬ大胆な下着のチョイスは、まず間違いなく彼女の親友が勧めたものと見て間違いない。そして彼女自身がそれを身に着けるまで、どれほどの葛藤を経たことか。彼女の心遣いに感謝しつつ、小狼は右の掌の中に収まっていた卵形の容器を握り直す。気持ちを切り換える。ここで妄想に耽っているわけにはいかない。
　そう。これから行う行為を考えれば、そんな妄想は序の口にしか過ぎないのだ。
（フゥーー……）
　彼女に聞こえないよう、心の中で息を吐き改めて気持ちを整える。右手の小指と薬指でグリセリンの入った容器を器用に抱え込み、残りの指と左手の指でワンピースの裾を掴んだ。
「いくぞ……」
　厳かな声を発し、小狼はさくらの返答を待たず静々と水色の布を捲っていった。もしここで変に躊躇ってしまえば彼女の羞恥心を余計に煽ってしまうのは目に見えている。夫婦とはいえ非常に繊細な心遣いが必要なのだ。
　ワンピースの下から徐々に姿を見せる、白い太もも。それから付け根へ至る前に、太ももに挟まれた彼女の両手が現れる。もう数え切れないほど肌を重ねているのに、未だ秘部を見られる事は恥ずかしいようだ。初々しさを失わないさくらに堪らない愛しさが込み上げてくる。同時に彼女の恥ずかしがる姿をもっと見てみたいという嗜虐的な想いも。
　彼女が左側臥位（ひだりそくがい）、つまり身体の左側面を下側にして横になっているお陰で少々勝手は違ったが、青年はついに彼女のヒップを目の当たりにした。
　スムーズな曲線を描く、バストとは違った二つの膨らみ。柔らかさよりも繊細さを感じさせる白さと肌のきめ細かさ。見つめているだけで小狼の下半身は重くなり、そして滾っていく。愛しさと嗜虐心をない交ぜにした気持ちが官能を刺激する。
「キレイだ…………」
　思わず青年の唇からそんな感想が零れた。身体を赤ん坊のように小さく丸め、秘部を両手で覆い隠しながら、丸出しにしたお尻を自分へ向けている彼女の姿。その光景に魅せられた小狼は本来の目的をすっかり忘れ、見惚れていた。
「……もぅ……しゃぉ……」
　さくらが身動ぎをし、消え入りそうな声を漏らす。彼女なりの精一杯の抗議。彼女のは心は羞恥心で一杯になり、出来る事なら今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。
　けれどここまで来てしまった以上、止めるわけにはいかない。お腹の中の赤ん坊が大きくなり、回数が減ったとはいえ口や手でも何とか彼を満足させて上げられていると思っていたのに、彼が一人で自分を慰める姿を見てしまった。彼のあんな辛そうな姿は見たくないし、実のところ自分の中で持て余している欲求もどうにかしたい。何か方法はないかと親友の知世にまで相談し、ようやく見つけたのが、この答え。こんな所で恥ずかしがって、せっかくチャンスの不意にしたくはない。
「…………スマン」
　さくらの気持ちを察し、小狼は何度目かの吐息を漏らし、再び気持ちを切り換える。
　腫物に触るよう左手をゆっくりと彼女のヒップに添える。ピクリと震える真っ白いお尻。続けて彼の左手は器用に動き、力を入れるのにちょうど良い位置を探り出す。愛撫とは違った指遣いがさくらの背筋に言い知れぬ感覚を走らせた。
　そして――。
　小狼はその指先へ氷が融けるような速度で力を加え、お尻の谷間を割り開いた。
　さくらの全身が一瞬にして硬直したのが分かる。そこは秘部以上に見られたくはない、羞恥心を燃え上がらせるお尻の窄まり。恐らく少女の可愛さとは最も対極に位置する場所。少なくともさくら自身はそう思っている。
　だが小狼の印象は違った。相似曲線を描く筋が中央の一点へ窄まっていく様は、菊の花にも似た造形的な美しさが感じられる。ましてやそこが秘部に似た色彩を宿していれば、小狼の興奮は嫌が応にも高まっていく。
　ジッと魅入ってしまいそうになる自分を律し、彼は右手の中に収めていた容器の先端をそっと宛がう。
「ん…………」
（うぁ……）
　さくらの息遣いに合わせて収縮する窄まり。その様を見ているだけで小狼の心臓は鷲掴みにされてしまう。
　これがもし純粋な医療行為なら彼はもう少し冷静でいられただろう。だがこの浣腸は後に続く愛欲に塗れた行為への準備なのだ。期待をしてはいけないと思いつつ、小狼の股間は痛いくらいに張り詰め滾っている。
「いれるぞ…………」
　からからに乾いた喉から無理矢理それだけを絞り出し、小狼の指は慎重に慎重を重ね、浣腸容器の先端部をさくらのお尻の窄まりへ挿入した。