さくらが小狼を呼び寄せようと振り向いたとき、
「伏せてーっ!!」
背後から苺鈴の鋭い叫びが響いた。
間髪入れず猛烈な力が背後から覆い被さり、さくらと知世の二人は地面へ叩きつけられるように倒された。
「！！」
なにが起こったのか分からずさくらは声にならない叫びをあげる。続けざま、誰かが背中にのし掛かってくる感触。
それが誰かを確認する前にさくらの視界は白い閃光に覆われた。
視界の隅に鮮烈な紅。凄まじい爆発音とそれに続く爆風。そして火事の現場に放り込まれたような熱が通り過ぎていった。
背後の重みが無くなり、さくらはそれが苺鈴のすぐ傍にいた大男のボディガードである事を確認した。彼に助けてもらいながら立ち上がったさくらが見たものは普段の生活では決して目にすることのない光景だった。
黒塗りのリムジンが赤い炎をあげて燃えている。ほんの数秒前は車だった物がただの鉄の塊と化していた。
「う……そ……」
絶対に信じたくない。あの車には小狼が乗っていたはず……。
さくらはその場に落ちるようにしゃがみ込んでしまった。
「しゃ……小狼、くん……」
震える唇からそれだけの言葉を紡ぎ出した。そして渦巻いていた気持ちがその声をはけ口にしようと一斉に殺到した。
「小狼くんっ！ 小狼くんっ！！」
悲痛な声で彼の人の名前を呼びながら、フラフラと炎に近づいていく。
「木之本さんっ！！」
「さくらちゃんっ！！」
苺鈴と知世の二人が慌ててさくらを引き留める。
「小狼くんっ！ 小狼くんっ！！」
悲痛なさくらの叫びを燃え盛る炎の轟音がかき消していた。
