エフ

「くっ……」
　小狼は苦悶の表情を浮かべた。
　頬が朱に染まり、眉間にしわが寄る。目尻はつり下がり、不自然に引き結ばれた唇からはため息とも取れない息が吐き出された。
「さ、くら……」
　彼は震える手をそっと彼女の頭に添える。はちみつ色の髪を梳き、何度も何度も撫でてやる。
「ん？」
「！！」
　不意に見上げた来たさくらと目が合う。
　紅葉を散らしたような恥じらいの表情と、くわえ込んだまま形のまま歪に変形している唇との対比が、小狼の心臓を鷲掴みにする。さくらの口の中が狭くなったように感じる。
　もっと恥ずかしい事をしているのに。それともその自覚があるからか。二人は一瞬の間を置いて、すぐ目を逸らしてしまった。お互いに耳まで真っ赤に染めて。小狼は明後日の方を向き、さくらは目を伏せる。
（あ…………）
　小狼は唐突に思い出した。ここは紛れもなく彼女の部屋だ。見た目だけでなく、鼻腔をくすぐる甘い匂いもそれを主張している。
　彼女の、女の子らしい女の子であるさくらの部屋で、しかも首まで真っ赤にしたさくら自身が、自分の股間に顔を埋めている――。
　そんな背徳的なシチュエーションに、彼はますます熱くなるのを感じた。
　そして――。
「うぁ……くっ…………」
　唐突に再開された彼女の舌の動きが、小狼の手に力を込めさせた。乱暴にさくらの頭を掴んでしまう。
　それでもさくらはそれを止めようとはせず、むしろ唇の動きも加え、さらには口に含めない部分を両手で包み込む。中にある卵の形に似た二つの感触を確かめるように。
　小狼の唇から漏れ出るものが苦痛ではない事をさくらは知っている。
　それをもっと感じて欲しいから。もっと彼のその声を聞きたいから。とても恥ずかしいけれど、もっと好きだと、もっと大好きだと伝えたいから。
　さくらは彼のくびれた部分に舌先でなぞる。

　ほどなくして、小狼が声にならない悲鳴を上げ、腰を小刻みに振るわせた。