you & me

　だがさすがにこの帰り道で彼女を抱きしめるのは躊躇われる。誰にその瞬間を目撃されるか分からないから。
　だから小狼は手袋を着けていない右手で、同じ素手の彼女の手をパシッと掴む。
　そしてそのまま、自分の素肌と彼女の素肌を密着させ、しっかりと握りしめた。
「こっちはこうすれば温かいだろう」
　絡み合う指を通して伝わるお互いの熱。
「……ウン」
　さくらはあっという間に真っ赤になって小さく肯くことしかできない。
　小狼の顔も負けないくらいに真っ赤だ。
　二人はお互いの熱が結び合う場所をしばし見つめる。
　何よりも幸せを感じる瞬間。お互いを感じられる瞬間。高まっていく鼓動。
　耐えられず先に動いたのはやはり小狼だった。
「帰るぞ」
　自分から握っておいてなんだが、この手の温もりは反則だ。今日の寒さがより一層さくらの温もりを感じさせてくれる。もしあのまま留まっていたら、いつもよりも深いキスをしてしまいそうだった。
　さくらももし、あのまま小狼に迫られていたとしたら、拒むことはなかっただろう。むしろ彼が動いてくれたおかげで、霞がかっていた頭の中が晴れた。それくらい小狼の温もりは強烈だったのだ。小狼には悪いけれど、ちょっぴり今日の寒さに感謝するさくら。
　仲良く手を繋いで歩く影が少しずつ伸びていく。
「…今日は私が小狼くんを送ってあげるね。そうすれば私も小狼くんも寒くないし…」
　少女はそこまで言って口をつぐんだ。甘酸っぱい気持ちが一杯になってこれ以上、先を続けられない。
　いつになく静かなさくらを気にしつつ、小狼は気恥ずかしさと幸せの板挟みになりながら、家路を急いだ。

【おまけ】
　
　幸いにしてその現場を誰かに目撃されることはなかった。
　唯一いつもビデオカメラを携えているさくらの親友を除いて。
　校門の陰に隠れて、知世は一心不乱にビデオカメラを回していた。
「まさかこんなステキな画が取れるなんて…」
（一緒に帰るの、遠慮して正解でしたわ）
　心の中で呟きながら、彼女のカメラを操作する指に一層力がこもった。その時、カメラのレンズが怪しく光ったとか、光らなかったとか。